エネルギーが都市にもたらすイノベーション、3つのモデルから考えるエネルギー×イノベーションのシナリオ(1)(2/2 ページ)

» 2018年05月21日 07時00分 公開
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エネルギーを取り巻く社会インフラの課題

 エネルギーは社会インフラと密接に関係していることから、将来のエネルギーについて考える入り口として、現代社会のインフラが抱える課題について考えてみたい。

 社会インフラが抱える課題は、コミュニティの単位で大きく異なることから、コミュニティを大都市、郊外・地方都市、農村離島などの3つに類型化し、モデルごとにめざす姿と課題を例示する。これは、類型化して整理することで、関係者との議論するベースラインをそろえることが狙いであり、3モデルのいずれかに各都市を完全に合致させることを狙ったものではない。

 1つ目のモデルは、都市間のグローバルな競争で勝ち残ることを目的としたハイスペックな都市(フラグシップモデル)である。この都市の例としては、東京やシンガポール、ドバイのような先進都市が該当する。ハイスペックな都市には、新しいことにチャレンジし続けることで、新しい価値をもたらす都市の形を常に世の中に提案していくことが期待されている。例えば、電気自動車や電気バス、電気自転車のための充電インフラとして無線充電技術を搭載した道路づくりにより排出ガスを排除する都市、ロボット警察官による地域巡視で世界一治安の良い都市、あらゆるピークの平準化に寄与するナイトタイムエコノミーのような夜に需要を創出する新しい生活スタイルやワークスタイルを実現する都市などである。

 そのためには、率先して規制を緩和し、実験場を用意することで、新しいアイデアを取り込みやすくすることが重要である。そして、ハイスペックな都市で成功した要素は他の都市へと展開し、より高度な社会の創出に寄与していく。ただし、展開するのはあくまで成功要素のみで、ハイスペックな都市というモデル自体を他の都市へと展開しないことに留意が必要である。これは、ハイスペックな都市は世界の一部の大都市にしか存在しないこと、また差別化を求めている都市は同じことをしたがらないこと、それ以外の多くの地方都市にはハイスペックな都市と同様の挑戦に投資する金銭的な余裕がないことである。

 2つ目のモデルは、日本の大多数を占める郊外・地方都市で、人々の生活が地元に密着しているスマートな都市(普及モデル)である。このモデルの都市では、住民の暮らしやすさ・満足度を最重要としていることから、地域の問題や、さ細な不便さをその地域主導で解決できる仕組みを持つことが求められる。例えば、地域のごみ拾いや見守り、改善案提案などの地域貢献活動にポイントを付与する仕組み、地域のエネルギーストレージ(蓄電池、畜熱装置、など)を用意して皆でシェアし合う仕組み、都市レベルで意図的にエネルギー需要を創り出すデマンドレスポンスまたはエネルギー供給量に合わせた生活スタイルやワークスタイルの実現といったことが考えられる。

 そして、これらの仕組みをブロックチェーンのようなテクノロジーで、「安価に」実現することが成功への鍵となる。スマートな都市で重要なことは費用対効果であり、ハイスペックな都市のように投資で解決するのではなく、必要最低限の無駄のない設備と地域のアイデアで賢く解決することである。このような費用対効果の高い施設は、国外の地域(新興国など)へ展開できるポテンシャルも高いため、日本国内でも早急に成功事例を構築していくことが重要である。

 3つ目のモデルは、消滅可能性都市として対策が必要な農村や離島といったミニマムコストな都市(エコノミーモデル)である。このようなモデルの都市では、インフラ使用量(収入)に対してインフラ維持コスト(電柱などインフラ設備の巡視、設備更新など)が高く不採算となっている上に、設備の高経年化、インフラ維持要員の減少などの問題も重なり、これまで通りのやり方を前提としたコストダウンでは限界がある。こうした消滅可能性都市では、生活水準を維持しながらインフラ設備をどうスリム化していくかが課題となる。

 例えば、まだ十分とはいい難いが、コスト面で安価になりつつある太陽光発電と蓄電池で電力を賄う(オフグリッド化する)ことで、住民の生活水準を維持しながら電柱・電線などの数を減らし、巡視や設備交換などの保守メンテナンスのコストを抑えるという手段がある。また、エネルギーインフラだけでなく、街灯、水道、通信、道路、郵便などの各種インフラ事業をそれぞれで維持するのではなく、インフラ事業を束ねた共同メンテナンス運営会社のような形態で採算性を改善できないかなど、水平での協業も併せて検討していくことが求められる。

 こうした取り組みは、一見すると後ろ向きにも捉えられがちだが、大都市に頼らない地産地消や自給自足、自然との調和といった生活スタイルを実現する考えにもつながっており、多様性が根付いた豊かな社会の構築には欠かせない施策であると考える。ただし、地産地消型のインフラ事業を推進するあまり、これまでインフラ事業者と住民の間で交わされていた何げないコミュニケーションが遮断され、特定の地域で暮らす住民が孤立してしまうような取り組みにならないよう注意が必要である。

図表3 エネルギーを取り巻く社会インフラの課題

 次回は、エネルギーインフラはどのようなシナリオ(仮説)で変化していくのかについて、配電領域と小売り領域の2つの観点から解説する。

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