デジタル化が転機に、未来の配電網が生むイノベーションとは?エネルギー×イノベーションのシナリオ(2)(1/2 ページ)

電力・ガスの自由化が始まった日本で、今後のエネルギーを基軸とした社会イノベーションのシナリオを考察する本連載。今回は送配電領域に起こり得る今後の市場変化、その先にあるイノベーションのシナリオについて解説する。

» 2018年05月29日 07時00分 公開

 前回は電力・ガスの自由化が始まった日本において、現代の社会インフラの課題に対するエネルギーを基軸としたイノベーションのシナリオについて紹介した。

 第2回の今回は、今後のエネルギーインフラはどのようなシナリオ(仮説)で変化していくのかについて示す。ここでフォーカスする領域は、生活に特に密接なつながりを持つ配電領域と小売り領域である。配電領域は、生活者にはその存在が見えていないが生活者のすぐ近くで生活をリアルに支えている領域である。もう1つの小売り領域は、生活者とのコミュニケーション接点を持ち、生活者を理解して課題を見つけ、生活者に選ばれることで生活にイノベーションを起こす領域といえる。

 この2つの領域に共通する今後の重要な変化は、エネルギー市場の重心が供給者側から需要家(広い概念で生活者)側へシフトしているということである。この結果、エネルギーインフラが担う役割は社会インフラ課題を解決するに留まらず、需要家に新たな価値を提供していくことまで拡大すると想定される。今回は配電領域がどう成長・発展していくかのシナリオを紹介する。

エネルギー転換が起こすエネルギーの今後の方向性

配電領域の将来

 現在、送配電領域では、旧一般電気事業者による送電と配電の一体運営で、アンシラリーサービス(周波数制御)までを含めた設備形成の最適化と運用がなされている。しかし、日本にも旧一般電気事業者とは別の事業者が存在する。これは主に特定送配電事業者のことで、2018年3月時点で24社存在する。特定送配電事業者とは、商業施設や再開発地域といった特定の範囲に限り、必要な供給力の50%を発電できる設備をその範囲内に持つ事業者である。

 このような環境下で、今後配電側に起こるであろう最初の環境変化は、配電網につながる分散型のエネルギーリソースの増加だ。例えば、再生可能エネルギーの場合、従来増加していたのは、メガソーラーや大規模風力などの電源であり、その接続先は送電網(特別高圧電力、高圧電力)であった。しかし、このような大規模電源の開発には地理的な限界が出てきており、今後は、需要家エリアの土地や屋根を利用した小規模な太陽光発電、小型風力などの電源開発が進む見込みである。さらに、EVや蓄電池の普及、需要家側のコントロールにより生まれる電力増加分、消費削減分を電源とするポジワットやネガワット取引を含むと、それぞれの規模は小さいが大量の数のエネルギーリソースが需要家エリアの配電網につながることになる。

 ここで問題となるのは、無防備に配電側に接続する電源を増加させると、いつ、どこで、どの種の電源から、どれくらいの発電量があるのか(増減するか)を捉えきれなくなることである。電気事業法施行規則では、維持すべき電圧範囲として、標準電圧100V(ボルト)で101V±6V、標準電圧200Vでは202V±20Vと定められているが、この順守が難しくなるだけでなく、6.6kV(キロボルト)の配電用変電所への逆潮流防止などの高価な対策が必要となる。

 そのため、配電自動化システムのような制御系システムを高度化させていくだけでなく、どこにどれだけの分散型の電源を増加させていくのか、配電系統の信頼度・余裕から定量的に算出し、うまく分散型電源への投資を誘導していく仕掛けを設けることや、配電用変電所以下の配電網で需給のバランスを取る仕掛けとして、例えば電圧上昇時に蓄電池で電力を吸収することや、配電版のコネクト&マネージを導入していくことなどが必要になる。

 そのためには、配電網(柱上変圧器など)の制御情報や需要家側に設置される電源の情報をデジタル化・可視化することが必要である。情報をデジタル化・可視化すれば、これらを活用して配電系統の電圧や電気の流れをAIでシミュレーションをし、その予測に基づく配電網での運用の最適化を実現することが可能となる。このような例のように、配電網内で上位の送電部門側と需給コントロール状況を共有することで、送電と協調して系統全体の安定供給につなげていくことが重要である。

*緊急時用に空けていた容量や、容量を確保している電源が発電していない時間などの「隙間」をうまく活用して、よりたくさんの電気を流せるようにしようというもの。出所:経済産業省資源エネルギー庁「送電線『空き容量ゼロ』は本当に『ゼロ』なのか?〜再エネ大量導入に向けた取り組み」(http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/akiyouryou.html)

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