変化する消費と社会、「共感の時代」に求められるエネルギー事業とは何かエネルギー×イノベーションのシナリオ(3)(2/3 ページ)

» 2018年06月12日 07時00分 公開

変わるエネルギーの「価値」をどう捉えるか

 次に、エネルギーの購入により直接的に感じる「生活者への提供価値」について紹介する。

 現状のほとんどの事業者は、規制料金下で用いられた3段階料金のような料金プランを用意しているが、今後、スマートメーターの普及や、卸電力取引の活性化を受けた時間帯別の電力調達コストを逐次反映させる「ダイナミックプライシング」の導入により、実コストに見合った料金プランの創出が期待されている。

 ダイナミックプライシングのもとで、電力が余っている安い時間帯に積極的にエネルギー使用を促進し、電力がひっ迫している高い時間帯には使用を控える、という生活者の行動に変化が生じることが期待されており、これが、電力のピークカットにつながるというメリットもある。

 ただし、このような行動の変化は生活者が必ずしも望むとは限らず、電気を使いたいときに電気代を気にして電気利用を我慢するような暮らし方を好まず、時間帯別料金を選択する生活者は少ないかもしれない(100円の得より、10円の損をしない損失回避性のプランを選ぶ)。もっとも、航空券の価格やホテルの宿泊代のように、需給のバランスに応じて刻々と価格が変わるダイナミックプライシングは、今後、太陽光発電や風力発電などが大量に導入され、再生可能エネルギーによる電力供給量が乱高下するであろう状況下では、ますます重要な取り組みとなってくる。

 なぜならば、途中で料金改定がない年度の一律料金設定では、年度予測のブレ分を価格に転嫁せざるを得ず、生活者に追加の料金負担を求める可能性があるからだ。この点、卸電力価格と連動させることにより、予測のブレ分の価格転嫁が不要になるダイナミックプライシングでは、生活者の余分な料金負担が抑えられる可能性が高い。

 さらに重要なことは、生活者側に分散型電源の導入が増え、電力を買うだけでなく、売電・蓄電を行うようになると、各世帯のエネルギーニーズは家庭ごとの発電量、売電量や蓄電量に大きく左右されるようになり、エネルギーの持つ価値も生活者それぞれで時間帯別に異なるという点である。

 このことから、小売事業者が顧客ニーズに合うエネルギーを提供していくためには、絶えず変わる生活者にとってのエネルギーの価値をいかに細かく把握できるか、さらにエネルギーの価値を的確に予測できるかを追求していかなければならなくなる。供給者側の論理(電力の調達価格、従業員数など)で算定される料金プランが、生活者側の論理で算定されるように変わるのだ。

 そして、その時々で異なる生活者のエネルギー価値を反映させる「パーソナライズされた料金プラン」が生活者に提供する有望なソリューションとなる。このソリューションは、ダイナミックプライシングと需要家設備のリアルタイムな状況、スマートメーターデータ活用などからの生活者の行動予測、天気予報などのオープンデータなどを駆使して、逐次算出されるものになると想定される。

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