メタンを省エネに燃料化、反応温度を下げる新触媒省エネ機器

北海道大学の研究グループは、天然ガスの主成分であるメタン反応温度を250℃以上下げられる新しい触媒を開発。反応温度を低くできることで、天然ガスの利用におけるエネルギー効率の向上が見込めるという。

» 2018年08月22日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 北海道大学の研究グループは2018年8月、新たに開発した触媒を用いることにより、天然ガスの主成分であるメタンを従来法より250℃以上低い650℃で、水素と一酸化炭素に変換することに成功したと発表した。コバルトのナノ粒子上にロジウムが原子レベルで分散した触媒構造が有効であることを解明したもので、この研究により、二酸化炭素の排出量が石油の約半分である天然ガスの利用進展が期待される。

 天然ガスの主成分であるメタン(CH4)は、炭素と水素の原子比が1:4と炭素の割合が低いため、燃やした時に発生する二酸化炭素の量が石油の約半分で済むという利点がある。また近年、非在来型の天然ガスであるシェールガスの経済的な採掘が可能になるなど、エネルギー源・化学品原料としてメタンの重要性はますます高まっている。

 メタンから化学品を作るためには、まず扱いやすい合成ガスと呼ばれる水素と一酸化炭素の混合物に変換する。しかし、現在の化学工業では、合成ガスを得るためにメタンを900℃以上の高温で水蒸気と反応させており(CH4+H2O→CO+3H2)、効率化が望まれている。

 反応を効率化させるための方法としては、水蒸気との反応の代わりに酸素と反応させる部分酸化法(CH4+1/2O2→CO+2H2)が提案されてきた。この反応を用いて、さらに反応温度を650℃以下に下げれば、プラントをコンパクトにでき、反応装置の材質を高価な特殊鋼から汎用性のステンレス鋼に代替できるため、プロセスコストが大きく下がると予測される。

 今回の研究では、部分酸化法によるメタンの合成ガスへの変換を検討した。この反応には触媒が必要であり、触媒の能力が効率を決定する。このほど新たに開発した触媒は、酸化されやすいかわりに比較的豊富で安価な金属であるコバルトを主活性成分に用いた。コバルトの活性を引き出すために、コバルトはゼオライトの表面に分散させた。しかし、コバルトはメタンの部分酸化反応ですぐに酸化されて活性が低下してしまう性質がある。そこで、貴金属であるロジウムをごく少量コバルトの表面に付けることにより、この問題の解決に取り組んだ。

 ゼオライトを用いることにより1.5nm(ナノメートル)の微細なコバルト粒子を作ることができた。さらにロジウムをコバルト粒子の表面に原子レベルで分散することも可能になっている。

 コバルトとロジウムの原子比は約1000:1であり、ロジウムの使用量はごくわずかとなる。この触媒を用いることにより、650℃でメタンを酸化してメタン転化率(反応したメタンの割合)86%、選択率(反応したメタンから一酸化炭素が得られた割合)91%を達成でき、少なくとも50時間にわたって安定に機能したという。この間にコバルト一原子当たり、水素は約24万分子、一酸化炭素は約12万分子を生成した。

新触媒によるメタンの合成ガスへの変換イメージ 出典:北海道大学

 同触媒が高い活性を示す理由を調べたところ、微量のロジウムがコバルトを活性な金属状態に保っていることがわかった。これは、ロジウム原子上でメタンが分解して原子状の水素が生成し、この水素が触媒の表面を移動し、酸化されたコバルトを還元しているためと推測している。

 今回の研究により、ごくわずかな貴金属を表面に分散させることで、安価なコバルト触媒を低温で効果的に機能させる方法が明らかになった。この触媒設計に基づいて、メタンの低温部分酸化プロセスが実現すれば、低炭素社会化に貢献できることが期待される。

 なお今回の研究は、科学技術振興機構(CREST)「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」研究領域のプロジェクト「反応場分離を利用したメタン資源化触媒の創成」の支援を受けて実施した。

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