太陽光発電と農業を両立、いま「ソーラーシェアリング」が注目される理由ソーラーシェアリング入門(1)(2/2 ページ)

» 2018年09月10日 07時00分 公開
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「ソーラーシェアリング」に期待されているもの

 農林水産省がその目的として明確に示しているのは、「農地は、国民の食料の生産基盤であり、今後とも優良農地を確保していくことが重要」であり、「他方、再生可能エネルギー発電設備の設置等の土地需要にも適切に対応することも必要」※1という点です。

 その上でソーラーシェアリングに期待されているのは、売電収入による農業経営の改善や、地域活性化といった視点にあります。実は、2012年のFIT導入以降に再生可能エネルギー発電設備を立てるために農地転用された面積は、合計7000ha(ヘクタール)以上にのぼります。これは山手線の内側(約6300ha)よりも広く、東京都の八丈島(約6952ha)とほぼ同じくらいです。それだけの面積の農地が再生可能エネルギー発電事業のために消滅しているということは、食料もエネルギーも自給率を高めていく必要があるとされる日本において、エネルギー生産のために食料生産基盤を潰しているとも言えるでしょう。

 そんな状況下にあって、ソーラーシェアリングは農地で食料もエネルギーも生み出せる一挙両得の取り組みだと言えます。そのため、太陽光発電などの設備を設置できる農地の要件も幅広くなっていて、実はこれがソーラーシェアリングに取り組みたいという人々を増やす大きな理由になっています。

 その要件とは、原則として農業以外の用途に用いることが認められない、農用地区域内の農地や、甲種農地・第1種農地に太陽光発電設備を導入できることです。

 国内の農地の総面積※2約450万haのうち、農用地区域内の農地は約403万haあり、実に90%近くが農用地区域内です。この農用地区域は、市町村が作る「農業振興地域整備計画」で定められ、手続きを経ることで農用地区域から農地を除外することも可能ではあります。

 しかし、農林水産省は2025年度時点に「確保すべき農用地区域内の農地の面積」を403万haとする目標を定めており、現段階で既にその水準の面積であるため除外手続きを受けることは容易ではありません。そもそも、食料生産基盤である農地を用途転用し、再生可能エネルギーである太陽光発電所に変えていくこと自体が、食料生産もエネルギー生産も国内で高めていく必要があるわが国の状況に合致しません。

 ソーラーシェアリングはこの二つを両立させる取り組みであることからも、特別な扱いでもって、多くの農地に設置できるような措置が執られているのです。

※1.農林水産省「営農型発電について」(http://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-5.pdf)

※2.2016年度時点

著者プロフィール

馬上 丈司(まがみ たけし)

1983年生まれ。千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役。株式会社エコ・マイファーム代表取締役。一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟代表理事。千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、地方自治体における再生可能エネルギー政策に関する研究により、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策、農業政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内各地で太陽光・小水力・バイオマスなどの自然エネルギー源による地域活性化事業に携わる。2013年よりソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に取り組み、国内外で200件以上のコンサルティング実績を持つ。2018年4月に一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟の代表理事に就任し、各地で講演活動等も行いながらソーラーシェアリングの普及に尽力している。


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