再エネを直流で無駄なく活用、金沢工業大が“生活”実証自然エネルギー

金沢工業大学は再生可能エネルギーで発電した電力を「直流」のまま、効率よく活用するシステムの構築と実証実験に取り組んでいる。キャンパス内の太陽光発電と蓄電設備を設置したコテージで、実際に被験者が生活を行いながら実証を進めているという。

» 2018年10月25日 14時00分 公開
[スマートジャパン]

 金沢工業大学は、再生可能エネルギーや蓄電池・EV(電気自動車)・水素・熱活用などを組み合わせた電力制御システムを構築する「エネルギーマネジメントプロジェクト」を2018年春に開始した。このプロジェクトでは、再生可能エネルギーを軸にした、エネルギーを地産地消する、地方創生のエネルギーコミュニティモデルの構築を目指している。

 このプロジェクトで、現在、再生可能エネルギーで発電した電力を、直流給電のまま供給し、効率よく利用するというエネルギーマネジメントシステムの実証を進めている。金沢工業大学白山麓キャンパス(石川県白山市)にある4つのコテージに、太陽光発電と蓄電設備を設置。再生可能エネルギーに適合した直流給電システムを構築し、実際にコテージで被験者が生活を行いながら、電力の発電から使用までを含む実証実験を進めている。

 一般的な送電・配電にはAC(交流)が用いられるが、実証実験での電力供給システムでは、AC-DC(交流-直流)の変換を行わず、DC(直流)で電力を運用している。ACは途中で電圧を高く変換して長距離送電できる。このため、現在の送電網はACを基本に構成されている。しかし、将来予想される電力の地産地消では、電力は発生したすぐ近くで消費することになる。さらに、太陽光などの再生可能エネルギーではDCの電力が発生する。AC-DC変換を行うよりも、DCで、そのまま電力を利用するほうが電力システム全体の効率を高めることができる。

 実証実験では、電力が不足した場合は、コテージ間で電力をシェア(融通)し合い、電力の需給バランスを維持する独自の仕組みを構築している。電力会社から供給される商用電源とも接続しているが、買電は可能な限り最小化し、再生可能エネルギーのみを使用する「オフグリッド化」をめざしている。将来的には、ブラックアウトに耐え得ることも実証検証する予定だ。

 コテージで蓄電した電力をEV(電気自動車)の充電に使用する実験も開始している。EVの充電スタンドを白山麓キャンパスに設置しEVを充電。約30キロメートル離れた白山麓キャンパスと扇が丘キャンパス(石川県野々市市)の往復にこのEVを使用し、データを収集している。さらに、EVを電力輸送する「配電線」と見立て、EVを用いて電力が不足する地域に電気を持ち運べるようにしている。

コテージに導入された制御システム(左)。配電線」に見立てた電気自動車で電力の輸送も実証中だ(右) 出典:金沢工業大学

 実証実験の今後の計画として、まずはコテージ間へのDCリンクの拡充を、次に白山麓キャンパスにある産学連携の拠点「イノベーションハブ」へ拡充する計画だ。

 エネルギーの貯蔵方法として蓄電池だけではなく、水素を利用したエネルギー貯蔵の実験も検討する。蓄電池は少量・短期間のエネルギー貯蔵に向いており、水素は大量・長期間のエネルギー貯蔵に適している。水素の利用方法としては、例えば、電力使用量が少ない休日に発電した電力を使って水素を製造・貯蔵し、平日に利用することや、夏に製造・貯蔵した水素を冬に利用することを計画している。蓄電池の電力と、水素を相互補完的に組み合わせて活用する予定だ。

 低温の地熱を使って発電するバイナリ発電、木質チップを使ったバイオマス発電の設備を設置するとともに、熱の活用として、温泉水・地下水の熱搬送も予定している。この計画では、白山麓キャンパス内にある温泉施設の温泉水や、年間を通して水温が約16度で一定した地下水を、融雪や冷暖房に利用する。また、同キャンパス内に併設されている国際高等専門学校の図書コモンズのゼロエミッション化(温室効果ガス排出ゼロ化)を目指し、温泉水・地下水による空調制御のほか、DCリンクから供給される電力で照明や各種電源をまかなう予定だ。

 この他、AIやIoTの技術を活用し、これらの創エネ、エネルギー貯蔵、DCリンク、熱活用を効率的に行う、エネルギーマネジメントシステムの開発も進めるという。

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