結晶シリコン太陽電池の高性能化を実現、名古屋大が新材料太陽光

名古屋大学が太陽電池への応用に有望な電気的特性を示す酸化チタン極薄膜を開発。結晶シリコン太陽電池のさらなる高性能化につながる成果だという。

» 2019年01月09日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 名古屋大学は2018年12月、太陽電池への応用に有望な電気的特性を示す酸化チタン極薄膜を開発したと発表した。同時にこれまで明らかになっていなかった太陽電池向け酸化チタン極薄膜の詳細構造も解明し、太陽電池の高性能化につながる新材料の実現に寄与する成果としている。

 現在主流の結晶シリコン太陽電池の高性能化に向けて、結晶シリコン上への酸化チタン薄膜の製膜に注目が集まっている。太陽電池の内部で生まれる電子を収集する材料として、酸化チタン薄膜が優れた特性を示すためだ。しかし、高いパッシベーション性能を実現する酸化チタン薄膜と結晶シリコンとの界面付近(ヘテロ界面)の構造が明らかになっておらず、新規ヘテロ接合材料の開発指針が定まらないという課題があった。

 そこで研究グループは、高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造調査を試みた。まず、単結晶のシリコン基板を洗浄し、さらにオゾン水(DI-O3)、過酸化水素水(H2O2)、110°Cに熱した硝酸(HNO3)、常温の硝酸の4種類を用い、事前に結晶シリコンに酸化処理を施した。その後、原子層堆積装置を用いて3nm(ナノメートル)の極薄膜の酸化チタンを製膜。その後、熱処理を行うことで高いパッシベーション性能を発現させた。

 この酸化チタン薄膜について、透過型電子顕微鏡と電子エネルギー損失分光法を組み合わせ、試料断面の詳細な構造解析を行った。その結果、高性能な酸化チタン薄膜は熱処理前は、シリコンの酸化膜の密度は低いが、処理後はチタン原子が含まれた化学量論的比に近いシリコン酸化膜になることが分かった。また、この「チタン原子を含む化学量論的比に近い密度」が高いパッシベーション性能の実現において非常に重要であることが分かったという。

 さらに、酸化チタンと酸化シリコンの間には、両者が混合した混合膜が生じていることも明らかになった。この他、事前の酸化処理では、室温の硝酸で結晶シリコンを事前に酸化させ、熱処理を行う場合が最も高いパッシベーション性能を引き出すことが分かった。

酸化チタンを製膜する前に、さまざまな条件で酸化処理を施した結晶シリコンのキャリア寿命の比較 出典:名古屋大学

 研究グループは今回の研究成果により、結晶シリコン系太陽電池のさらなる高効率化が期待できるとしている。また、密度の低いシリコン酸化膜を事前に形成することで優れた電気特性が得られることが分かったことから、今後はより疎なシリコン酸化膜を形成することでさらなる性能向上を目指す方針だ。酸化チタン以外の新規ヘテロ接合材料の開発も並行して進めており、普遍的な高性能化モデルの構築にも貢献したいとしている。

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