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進化する火力発電、ガスの熱効率が55%超、石炭も44%超が標準に法制度・規制

日本の電力を支える火力発電の技術が着実に進化している。最新鋭の発電技術のガイドラインになる「BAT」の2014年度版を政府が策定した。従来の火力発電では性能を決める熱効率が40%以下にとどまっていたが、最新のガス火力では55%を超え、石炭火力でも44%を超える設備が標準になる。

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 火力発電で最大の問題はCO2をはじめとする有害物質を大量に排出することにある。経済産業省と環境省はクリーンな火力発電設備を普及させるためのガイドラインを「BAT(Best Available Technology、最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況)」として2013年度から公表している。新たに2014年度版のBATを策定して、基準になる発電技術を拡大した。

 BATは発電設備の導入段階によって、(A)商用運転中、(B)建設中、(C)開発・実証中、の3種類に分かれる(図1〜3)。それぞれ石炭火力と天然ガス火力で最先端の技術をまとめたもので、発電規模や発電方式、そして環境性能に大きく影響する熱効率の目安を定めている。

 熱効率は石炭や天然ガスを燃焼させた発熱量を電力に変換できる比率で、100%であれば熱エネルギーをすべて電力に転換することができる。実際には熱エネルギーの多くが発電の過程で失われるため、従来は電力に変換できる比率が35〜40%程度にとどまっていた。さまざまな新技術を適用することによって熱効率の改善が進むと、そのぶん燃料が少なくて済み、CO2の排出量も減らすことができる。

 すでに商用運転を開始した設備の中には、石炭火力で熱効率が40%を超えるものが出始めている(図1)。一方のガス火力では熱と蒸気で2段階の発電が可能なコンバインドサイクル方式によって、50%以上の熱効率を発揮する設備が主流になってきた。


図1 商用運転中の段階にある「BAT」(2014年4月時点、赤字部分は2013年度版からの変更点)。出典:経済産業省、環境省

 発電設備の熱効率は測定基準によって4種類あるが、一般には「発電端」の「低位発熱量基準(LHV)」を採用する。発電設備そのものから供給する電力を測定したものが発電端の能力で、発電所の中で失われる電力を除いた「送電端」の数値と区別している。さらに燃焼時に水分の凝縮熱によって得られる付随的なエネルギーがあり、それを含むのがLHV、除いたものが「高位発熱量基準(HHV)」と呼ばれる。

 2014年度版のBATの参考表を見ると、商用運転中の石炭火力は最低でも43%(発電端、LHV)の熱効率を発揮する。これから建設する石炭火力発電設備では、この基準値と同等以上であることが求められる。ガス火力の場合には56%以上が目安になる。東京電力をはじめ電力各社が2013年度に運転を開始した最新の火力発電設備が基準になっている。

 さらに建設中の火力発電設備になると、石炭火力は44.5%、ガス火力は60〜62%まで熱効率が高まる(図2)。すでに石炭火力では東京電力が2013年12月に運転を開始した「広野火力発電所6号機」で45.2%の高い熱効率を実現している。

 ガス火力でも東京電力が2016年度に稼働させる「川崎火力発電所2号系列」が61%、中部電力が2017年度に稼働予定の「西名古屋火力発電所7号系列」では62%を見込んでいる。熱効率を1%改善できると、発電量あたりのCO2排出量は2%程度少なくなる。


図2 建設中の段階にある「BAT」。出典:経済産業省、環境省

 日本の火力発電技術は世界でもトップクラスにあり、早くも2020年代に向けた技術開発が進み始めている(図3)。石炭をガスに転換してからコンバインドサイクル方式で発電する「IGCC(石炭ガス化複合発電)」を適用すると、熱効率は50%前後まで向上する。


図3 開発・実証中の段階にある「BAT」。出典:経済産業省、環境省

 ガス火力では燃焼温度を高めて熱効率を引き上げることが可能だ。商用運転中の設備は1500度、建設中の設備では1600度までだが、日本の発電機メーカーは1700度まで可能な発電設備の開発を完了している。国が2020年度まで実証試験を実施する計画で、その後に商用運転に移行する予定である。これで熱効率は65%程度まで向上する。今後も火力発電のコストとCO2排出量は減り続ける。

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