15年で壁を超えた、効率25.6%のHIT太陽電池:自然エネルギー(2/3 ページ)
パナソニックはシリコンを利用するHIT太陽電池セルにおいて、変換効率が初めて25%を超えたと発表した。25%を突破したシリコン系太陽電池の記録は15年ぶりである。従来のセル構造を一新することで実現した。
3つの技術革新で効率改善
HIT太陽電池の変換効率を高めた今回の技術開発は、大きく3つに分かれる。(1)太陽光によって生み出された電子(と電子が抜け出した孔であるホール)が再結合によって失われないようにする技術、(2)太陽電池の表面に影を作らないようにする技術、(3)太陽電池自体の電気抵抗を下げて、損失を減らす技術だ。
(1)〜(3)の技術開発の内容をつかむためには、まず太陽電池の構造を把握するとよい。今回の開発ではHIT太陽電池の構造自体が変化している。そこで、従来の構造をまず紹介する(図3)。
図3の左側は単結晶シリコン太陽電池セルの断面図(模式図)だ。微量の不純物を含んだシリコンのインゴットを薄く切り取ってウエハーを作り、表面に電子が多くなるように別の不純物をしみ込ませる(不純物のドーピング)。「p型cーSi」とあるのがウエハー、「n型」とあるのがしみ込ませた部分だ。太陽電池の動作に必要不可欠なpn接合を作るためにこのような構造を採っている(関連記事)。その後、表面(上)と裏面(下)に黄色い棒で示した電極を印刷して電流を取り出せるようにしている。900度とあるのはしみ込ませるときの工程の温度だ。
図3の右側が従来のHIT太陽電池セルの構造。「n型c-Si」とあるのがウエハーに由来する部分。その上面と下面に結晶構造をもたないアモルファスシリコン膜(a-Si)を形成している。ごく薄い膜だ。水色で示した層は光を通す透明導電膜。表面電極と裏面電極の様子は単結晶シリコン太陽電池セルと変わらない。200度とあるのはアモルファスシリコン膜の形成温度。製造時に高温にならないため、ウエハーに由来する部分の品質劣化が起きにくい。
HIT太陽電池は、多くの電流を取り出すことができる単結晶シリコンと、高い電圧を取り出すことができるアモルファスシリコンを組み合わせた太陽電池だ。
図3の右側、アモルファスシリコンの部分には「p型/i型」や「i型/n型」とある。HIT太陽電池の高い性能を支えているもう1つの特徴がこの「i型」にある。i型の層は、過剰な電子があるn型や過剰なホールがあるp型とは異なり、電子、ホール、いずれもが少ない。太陽光がシリコン原子に当たって生じた電子やホールは電流になる。電子とホールがその場で結び付くと、熱になって電流が失われてしまう。i型の層を挿入することで、これをかなりの部分、防ぐことが可能になる。
従来のHIT太陽電池セルは、異種物質を重ねた(接合した)ヘテロ結合が表面と裏面の2カ所にあるため、ダブルヘテロ接合と呼ばれている。HIT太陽電池セルの裏側から入射する反射光や散乱光を発電に利用できるのはこのためだ。
25.6%を実現した技術のうち、(1)はこのi型の層周辺を改善したものだ。単結晶シリコンウエハーに高品質なアモルファスシリコン膜を作り込んだ。詳細は明かしていないものの、このときウエハー表面へのダメージを抑制する工夫を盛り込んだのだという。
技術(1)の効果は温度係数に現れている。太陽電池には温度(気温)が高くなるほど変換効率が下がるという性質がある。温度が1度上がったとき、どの程度変換効率が変わるかを温度係数で示す。パナソニックによれば、一般的なシリコン太陽電池セルの温度係数は−0.4%/度〜−0.5%/度。従来のHIT太陽電池セルでは−0.29%/度。これが新開発セルでは−0.25%/度と低い。HIT太陽電池はもともと高温になっても変換効率が下がりにくい。この特徴がさらに際立だった。
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