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原子力発電所の取捨選択が進む、2015年7月までに廃炉を判断法制度・規制

国内で57基ある原子力発電所のうち老朽化した設備の廃炉に向けた動きが進んできた。すでに9基の廃炉が決定済みだが、運転開始から40年以上を経過する7基についても2015年7月までに判断する必要がある。これに合わせて政府は懸案になっているエネルギーミックスの目標値も決定する。

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 九州電力の「川内原子力発電所」が2015年2月にも再稼働する可能性が高まる一方で、老朽化した原子力発電所の廃炉に向けた検討が政府と電力会社のあいだで進み始めた。2015年7月の時点で運転開始から40年以上を経過する原子力発電所が7基あり、廃炉か運転期間延長かの判断を迫られている。

 日本国内には57基の原子力発電所が存在するが、すでに東京電力の「福島第一原子力発電所」の6基のほか、中部電力の「浜岡原子力発電所」の2基と日本原子力発電の「東海第一発電所」の合計9基は廃炉が決まっている(図1)。


図1 原子力発電所の運転年数(2014年8月時点。画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 さらに日本原子力発電の「敦賀発電所」の1号機、関西電力の「美浜発電所」の1・2号機と「高浜発電所」の1・2号機、中国電力の「島根原子力発電所」の1号機、九州電力の「玄海原子力発電所」の1号機が運転開始から40年以上を経過して廃炉の検討対象になる。

 2019年までには関西電力の美浜3号機と「大飯発電所」の1・2号機、四国電力の「伊方発電所」の1号機、日本原子力発電の「東海第二発電所」も40年以上が経過する。このほか再稼働が難しい状況にある東京電力の「福島第二原子力発電所」の4基と日本原子力発電の敦賀2号機を加えると、合計26基を廃炉する可能性がある。ただし問題は1基あたり350億円以上かかる廃炉の費用である(図2)


図2 発電所の廃止に必要な期間や費用。出典:資源エネルギー庁

 これまでの計画になかった廃炉を電力会社が決定した場合、発電設備の減価償却費などを電気料金の原価に追加して3年間で回収することが認められている。そうすると短期的に電気料金が上昇することになり、特に廃炉対象の多い関西電力では大幅な値上げにつながりかねない。この問題を回避するために、政府は電力会社が廃炉関連の費用を長期間にわたって償却できる会計措置を2015年7月までに実施する見通しだ。

 それと同時に日本全体の将来の電源構成の目標値を示す「エネルギーミックス」を決めて公表する。2014年4月に策定した「エネルギー基本計画」では目標値を設定することができず懸案になっている。原子力発電所の再稼働と廃炉の見込みが立てば、原子力による発電量の目標値を確定することができて、残りの電力を火力発電と再生可能エネルギー(水力を含む)で供給する計画を固めることができる。

 現在までに原子力規制委員会に適合性審査を申請した原子力発電所は20基ある。この20基が再稼働することを前提にエネルギーミックスを策定する可能性が大きい。一方で再生可能エネルギーには電力会社による接続保留の問題が発生しているが、政府は遅くとも2015年3月までに対策を発表する。それに合わせて再生可能エネルギーの導入目標を再設定してエネルギーミックスに反映させることになる。

 原子力発電所の廃炉に向けた環境が整えば、国のエネルギー政策は前進する。残る大きな課題は使用済み核燃料の処理である。廃炉によって処分が必要になる放射性廃棄物のうち、低レベルのものだけが電力会社の責任範囲に入る(図3)。ところが処分場の確保や規制基準の策定が遅れているうえに、政府が責任を負う高レベルの放射性廃棄物に関しては現実的な処分方法の見通しすら立っていない状況だ。


図3 原子力発電所の廃炉プロセス。出典:関西電力

 いったん原子力発電所を運転してしまうと、数百年に及ぶ廃棄物の安全管理が必要になる。もはや発電所の新設などは非現実的であり、再稼働する発電所の数も可能な限り少なく抑える必要があることは明らかである。廃炉の決断と同時に現実的な原子力政策が問われている。

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