山形県唯一の重要港湾で波力発電の実証開始、再生エネ導入の重要拠点に:自然エネルギー
山形県唯一の重要港湾である酒田港で、新エネルギー・産業技術総合開発機構が波力発電の新たな実証試験を開始した。約半年にわたり既存の護岸や防波堤に後付け可能な振動水柱型空気タービン方式の波力発電システムの実証を行う。
山形県内を流れる日本三大急流の1つである最上川の河口部に位置する酒田港。同県内で唯一の重要港湾に指定されており、山形県における海上物流の重要拠点として栄えてきたこの港で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が新たな波力発電の実証試験を開始した。NEDOが2011年から進めている「海洋エネルギー技術開発プロジェクト」の一環で、発電規模は最大15kwを想定している。実証試験期間は約半年だ。
波力発電システムは波の力をどのように変換してエネルギーとして取り出すのかという観点から、振動水柱型、可動物体型、越波型など複数の方式に分けられる。さらに発電システムの設置形式では、システム全体を海面もしくは海中に設置する浮体式と、沖合や沿岸の防波堤や護岸などに設置する固定式に2分できる。
今回酒田港で行われる実証試験で利用されるのは、振動水柱型の空気タービン方式のシステムで、設置形式は護岸に取り付ける固定式(図1)。振動水柱型空気タービン方式とは、発電システム内に空気の出入り穴を備えた「空気室」を設けるのが特徴だ。空気室内の空気は海面に面しており、海面が上下に伴いこの空気による気流が生まれる。この力で発電機のタービンを回転させる仕組みだ。
波力発電などの海洋発電システムの普及に向けて課題となるのが、設備の整備や運用に掛かるコストと発電効率のバランスだ。今回の実証試験では使用する波力発電システムを、既存の護岸や防波堤に後付け可能なシステムにすることも目標の1つとなっている。波力発電システムの実用化に向けて、設備の建造や設置に関わる導入コストの低減を進める狙いだ。
酒田港が位置する山形県酒田市周辺は陸上風力発電が盛んな地域でもある。2015年3月時点で合計34基、4万6430kw規模の風力発電設備が設置されている。山形県は陸上だけでなく洋上風力発電への取り組みも進めていく方針で、酒田港はその導入地としても期待されている。2014年8月には「酒田港風力発電導入検討協議会」が設置されており、現在、関係事業者などと検討が進められている。年間平均風速が約7.2m/秒という酒田港の恵まれた風況を活用していく狙いだ。
その他の再生可能エネルギーでは、酒田港に隣接する形で建設された酒田北港に、庄内地域初となる最大出力1200kwのメガソーラー「酒田港メガソーラー発電所」が建設されており、2013年9月から東北電力への売電を開始している。
山形県は2012年に策定した「山形県エネルギー戦略」において、県内の電力使用量に対する再生可能エネルギーの比率を、2010年の2%から2030年には25%まで引き上げる目標を掲げている(関連記事)。こうした戦略の中で酒田港は、洋上風力から太陽光、将来的には波力発電の実現まで、山形県の海上物流のみならず再生可能エネルギーの導入に向けた重要拠点としての役割も担いはじめている。
関連記事
- 2030年に大型風力発電を230基、日本海沿岸から内陸の高原まで
東北地方は風力発電に適した場所が多く、山形県も例外ではない。日本海に面した酒田市では日本初の着床式による洋上風力を含めて5社の発電所が稼働中だ。内陸の高原を加えて2030年までに大型の設備を230基に拡大する。同時に太陽光発電も増やしてエネルギー自給率を25%に高める。 - 海洋立国の実力は? 「波力発電」の勝者は誰なのか
日本は国土の面積が世界62位でありながら、海岸の長さでは世界6位。海洋エネルギーの確保に向いた立地だといえよう。研究開発や実用化では他国と比較してどのような位置にあるのだろうか。波の力を直接利用する「波力発電」について、国内と海外の状況を紹介する。 - 日本には「黒潮」がある、海流発電の研究をIHIや東芝が着手
日本列島に沿って南側を流れる黒潮。他のさまざまな海洋エネルギープロジェクトと共に、この黒潮の海流エネルギーを取り出す研究開発が始まった。直径40mのタービンを2つ取り付けた長さ100mの浮体物を海底にケーブルで係留するという壮大なプロジェクトだ。商業化の暁には出力800MWという巨大な海中発電所が完成する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.