太陽電池の耐久力を向上、一般設備で使えるシート状シリコーン封止材を開発:太陽光
産業技術総合研究所(以下、産総研)太陽光発電研究センターのモジュール信頼性チームらは、信越化学工業とともに信越化学工業が開発した太陽電池モジュール用のシリコーン封止材を用いた太陽電池モジュールの評価試験を行った。
産総研九州センターに設置された環境試験機や測定装置を用いて、開発された新規シリコーン封止材を用いた太陽電池モジュールの高温高湿試験と温度サイクル試験を行ったところ、このモジュールは優れた耐久性を示した。
この封止材を用いた単結晶n型シリコン太陽電池モジュールの評価試験では、特定の条件下で太陽電池モジュールに高電圧がかかり出力が大幅に低下するPotential-induced degradation(PID)現象による出力低下を抑制する効果が確認された。この封止材は従来のシリコーンと異なりシート状であり、太陽電池モジュールの製造工程に使用される一般的な設備で使用できる。そのため、今後、単結晶n型シリコン太陽電池モジュールをはじめ、激しい環境下での太陽光発電システムの導入拡大や長期信頼性向上に貢献することが期待される(図1)。
過酷な環境での使用が増える太陽光発電
太陽光発電システムは海上や沿岸部などに設置するケースも増えており、従来よりも厳しい環境下での信頼性が求められている。また、太陽電池セルの発電効率競争に伴い単結晶型n型シリコンセルを用いた太陽電池モジュールの導入が、住宅用システムを中心に増えているため、モジュールに高電圧がかかって出力が大幅に低下してしまうPID現象への耐性を評価する必要性が増している。
今回の評価試験では信越化学工業が開発したシリコーン封止材を使用した実用サイズの太陽電池モジュールを用いた。温度85度、湿度85%の条件下に曝露(ばくろ)して耐久性、信頼性を評価する高温高湿試験と、温度を−40度から85度の昇温、85度から−40度の降温のサイクルを1サイクルとした耐久性・信頼性を評価する温度サイクル試験を実施した。
高温高湿試験では3000時間後に出力比99.8%、温度サイクル試験では600サイクル後に出力比99.1%であった。また、試験による劣化の進行に伴う新たな暗部の発生は観測されなかった。
太陽電池モジュールの認証試験の合格基準は高温高湿試験1000時間後、温度サイクル試験200サイクル後のいずれにおいても、初期出力の95%以上を維持することと定められている。これらの試験結果により、シリコーン封止材を用いた太陽電池モジュールは信頼性に優れていることが確認された。またPID試験でも試験前後で電気特性は変わらず、高いPID耐性を示した。
産総研では今後、シリコーン封止材量産化の促進、n型シリコン太陽電池モジュールのPID現象発生のメカニズムとシリコーン封止材による抑制メカニズムの解明に取り組む方針だ。
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