「人工光合成」で、酢酸から自動車用燃料を作る要素技術を開発:自然エネルギー
大阪市立大学の研究グループと自動車メーカーのマツダは、共同研究により、太陽光エネルギーを利用して自動車用の低炭素燃料として注目されるエタノールを生成できる「人工光合成」技術の開発に成功した。
人工光合成とは、文字通り人工技術で、植物の光合成と同じ現象を発生させる技術である。光合成は、太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素と水から炭水化物などの有機化合物を作り出す。同様の現象を人工で発生させることができれば、地球温暖化の大きな要因である二酸化炭素の減少に貢献できるだけでなく、新しいエネルギー生成が可能になることから研究が進められている。特に同技術は光触媒技術などで先行する日本が世界でも進んでいる領域であり、実用化に期待が集まっている(関連記事)。
今回開発した技術は、太陽光エネルギーを利用してエタノールを生成できる新しい人工光合成技術だ。大阪市立大学 複合先端研究機構 人工光合成研究センター所長で教授の天尾豊氏らのグループと、マツダ 技術研究所との共同研究において、実現した。
同研究グループでは、二酸化炭素(CO2)を出発物質とし、二酸化炭素とメタン(あるいはメタンの代わりにメタノール)から酢酸を生成。さらに人工光合成技術を用いて酢酸からエタノールを合成することを目指した。実験の結果、この実証に成功したという(図1)。
炭素数2の人工光合成技術を“初めて”実現
この技術では、150分間太陽光を照射すると酢酸のおよそ5%がエタノールに変換されたという。酢酸からエタノールを合成できる人工光合成技術の成功報告はこれまでになく「新たに成し遂げた成果」(同研究グループ)としている。従来は、二酸化炭素を炭素数1のメタノールに変換する人工光合成系の実証は報告されていたが、炭素数をさらに1つ増やしたエタノールを作り出す技術が実証されてはいなかった。
これまで人工光合成技術を用いた二酸化炭素の分子変換技術は、その生成物が一酸化炭素、ギ酸、メタノールなど炭素数が1のものに限られていた(関連記事)。今回開発された技術が実用化されれば、燃料として実用がより期待されるエタノールを太陽光と二酸化炭素から作り出すことができるようになり、従来開発されている食糧などからのバイオエタノールの代替となり得る可能性を持つ。
同研究グループでは今後、天然ガスであるメタンと二酸化炭素から酢酸を合成する技術を、酢酸菌などの利用により組み込むことで、太陽光と二酸化炭素からエタノール燃料を生成できる新たな人工光合成技術への展開に取り組む予定としている。
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