中部電力が都市ガス会社に卸販売へ、日本最大の石油資源開発会社と組む:電力供給サービス
小売全面自由化を目前に、電力会社と都市ガス会社の連携が始まろうとしている。中部電力は経済産業省が筆頭株主の国際石油開発帝石と組んで、都市ガス会社を対象に電力を卸販売する計画だ。子会社の新電力を加えた3社で、関東・甲信越を中心に電力とガスの事業拡大を目指す。
中部電力が提携する国際石油開発帝石(略称:INPEX)は日本最大の石油と天然ガスの開発会社である。経済産業省が19%の株式を保有する筆頭株主で、会長・社長ともに同省の出身者だ。国内外で開発した天然ガスを電力会社やガス会社に供給する事業を通じて、都市ガス会社に強力な販売チャネルがある。
両社は7月21日に電力の卸販売を共同で実施することに合意した。中部電力に加えて子会社で新電力のダイヤモンドパワー(略称:DPC)が調達する電力を生かして、電力の小売事業を展開する都市ガス会社に卸販売するスキームだ(図1)。2017年4月には都市ガスも小売全面自由化に移行することから、電力とガスを合わせた広範囲の事業に拡大する可能性もある。
中部電力とINPEXは新潟県の上越市で2013年から共同事業に取り組んでいる。中部電力の「上越火力発電所」に隣接してINPEXの「直江津LNG(液化天然ガス)基地」があり、LNGの供給と相互融通を実施中だ(図2)。
INPEXは直江津LNG基地の近くに日本で最大級の「南長岡ガス田」を保有して、海外から輸入するLNGと合わせて関東・甲信越を中心に数多くの都市ガス会社に天然ガスを供給している(図3)。主力の石油に加えて天然ガスの開発・販売を拡大する一方で、今後は電力事業を強化して総合的なエネルギー企業を目指す。
すでに2007年から新潟県で中規模のガス火力発電所を運転して、新電力向けの卸販売に参入している(図4)。同じ新潟県内にある製油所の跡地では2013年に太陽光発電所を運転開始したほか、北海道・秋田・福島の3カ所で地熱発電の開発計画を推進中だ。特に地熱資源の開発では石油や天然ガスの掘削技術を生かすことができる。
今後の注目は都市ガス会社のうち何社が中部電力・INPEX連合から電力の供給を受けるかだ。INPEXの販売チャネルは関東・甲信越が中心で、電力の供給エリアも同じ地域の可能性が大きい。大半は東京電力の管内に入る。東京ガスをはじめ同管内の都市ガス会社のほか、首都圏に進出をもくろむ他地域の都市ガス会社もターゲットになる。
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