地熱発電の開発に国が初めて出資、岩手・八幡平の探査に5億5000万円:自然エネルギー
資源開発が遅れている地熱発電に対して国の支援事業が活発になってきた。岩手県の八幡平市で計画中の地熱発電プロジェクトに5億5000万円の出資を決定した。これから現地で探査を実施して蒸気の噴出量などを確認する。発電規模は7MWで、2020年度にも運転を開始できる見通しだ。
国が出資する地熱発電プロジェクトの計画地は、数多くの火山が連なる八幡平(はちまんたい)の東側に広がる松尾八幡平地域だ。十和田八幡平国立公園の中にあって、周辺には3つの地熱発電所が稼働している地熱資源の豊富な場所である(図1)。
JFEエンジニアリングなどの出資で2011年に設立した「岩手地熱」が開発プロジェクトを進めていて、初期の地表調査と掘削調査を完了した(図2)。次のステップである探査調査を実施するにあたって、7月27日に政府系のJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)から出資を受ける基本契約を結んだ。
JOGMECは国の予算を使って地熱資源の開発を支援する立場にある。自治体や民間の事業者による資源調査に補助金を交付するほか、地熱発電の開発プロジェクトに対して出資や債務保証を実施する。このうち出資案件は岩手地熱が初めてのケースで、5億5000万円を出資する予定だ。
岩手地熱は発電規模が7MW(メガワット)級の発電所の建設に向けて開発事業を進めている。地熱発電所を建設するためには、調査・探査・開発・生産の4つのステップが必要になる。岩手地熱は第2段階の探査を2015年度内に開始する予定だ(図3)。
探査は地下に掘った調査井(ちょうさせい)を使って蒸気の噴出量などを確認するプロセスで、通常は3年程度を要する。岩手地熱は2015年度の探査に22億円の事業費を見込んでいて、そのうちの25%をJOGMECの出資でまかなう。JOGMECは2015年度に「地熱資源探査出資等事業」の名目で80億円の国家予算を確保している。
地熱発電所は発電規模が7.5MW以上になると環境影響評価が必要になる。岩手地熱のプロジェクトは7.5MW未満を予定しているため、環境影響評価は不要である。開発が順調に進めば、6〜7年で運転開始までこぎつけることができる。2020年度にも発電を開始できる見通しだ。
日本は地熱の資源量が世界で3番目に多いものの、火山地帯の大半が国立公園に含まれているため、規制によって開発が難しかった。地熱発電は再生可能エネルギーの中でも発電量が安定している。国が2012年から規制緩和に乗り出して、全国各地で開発プロジェクトが進み始めた(図4)。
ただし調査に着手してから運転を開始するまでに10年以上の長期間がかかり、事業者の資金負担は重い。今後もJOGMECを通じて出資や債務保証の案件を増やすことで、地熱発電所の開発計画を促進していく。
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