石炭火力発電の新設計画が進まない、いつまで続ける政府内の意思不統一:電力供給サービス
老朽化した石油火力から高効率の石炭火力へ更新しようとする計画に対して環境省が異議を唱えた。CO2排出量の削減に向けた電力業界の取り組みが不十分であることを理由に、計画は認められないと経済産業省に伝えた。本来はCO2排出量の削減に寄与する発電設備の新設計画が停滞する。
問題になっているのは、愛知県にある中部電力の「武豊火力発電所」の設備更新計画だ(図1)。現在は1972年から稼働する3基の石油火力発電設備が運転中で、すでに40年以上を経過して老朽化が著しい。石油火力は燃料費が高く、電力会社にとっては高効率の石炭火力かLNG(液化天然ガス)火力に切り替えることが不可欠になっている。
中部電力は現在の3基分の石油火力に匹敵する発電能力の石炭火力1基に更新することを決めて、環境影響評価の手続きを2月から進めてきた。新設する石炭火力の発電方式は最新の「超々臨界圧(USC:Ultra Super Critical)」を採用して、発電効率は45%以上になる(図2)。従来の石油火力の発電効率を2割以上も上回り、燃料費だけではなくCO2(二酸化炭素)の排出量も大幅に減る見込みだ。
ところが環境省は「是認できない」との意見書を8月14日に経済産業省に提出した。理由は2つ挙げている。1つは国全体でCO2排出量の削減に取り組む必要がある中で、電力業界が有効な対策を講じていない点だ。環境省は2年前から同様の主張を経済産業省と電力業界に対して繰り返してきた。先ごろ電力業界が2030年度の目標値を公表したものの、具体的な実行計画は作られていない。
もう1つの理由は石炭火力のCO2排出量がLNG火力を上回ることである。増加分に相当する環境保全措置を中部電力が計画の中に盛り込んでいない点を環境省は問題視している。新設する石炭火力発電設備の仕様は、経済産業省と環境省が共同で策定した最新の技術基準「BAT(Best Available Technology)」に合致する(図3)。それでもLNG火力と比べるとCO2排出量は2倍以上になる。
中部電力はLNG火力を上回る分のCO2排出量を別の対策で削減するように求められた。必要な対策を講じることができなければ、新設計画を中止するか、さらに効率の高い石炭火力かLNG火力に変更しなくてはならない。石炭火力では次世代の「石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)」を採用すればCO2排出量は減るが、それでもLNG火力よりは多くなる(図4)。
中部電力は電力会社10社の中では電力1kWh(キロワット時)あたりのCO2排出量が最も少なく、これまでも火力発電設備の更新に積極的に取り組んできた。武豊火力発電所の計画を実行できればCO2排出量を削減できる。にもかかわらず、政府内の足並みがそろわず、電力業界全体の対応が遅れているために、宙に浮いた状態になりかねない。
経済産業省が主導して電力会社ごとにCO2排出量を割り当て、2030年度までの実行計画を早急に策定する必要がある。老朽化した石油火力発電所の撤廃を含めて、抜本的な対策が求められていることは明らかだ。政府内の意思の不統一が長引くと、日本のエネルギー戦略は揺らいでしまう。
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