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全固体リチウム電池、発明者が狙う次の一手蓄電・発電機器(1/3 ページ)

再生可能エネルギーの大規模利用や電気自動車の普及に役立つリチウムイオン蓄電池。同電池の発明者がテキサス大学の研究チームを率いて、これまでにない「めっき動作」で電力を蓄える全固体リチウムイオン蓄電池を開発した。蓄電池に求められる全ての性能を改善できる。

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 安全で低コスト、容量が大きく*1)寿命が長い。さらに充電時間も短い。このような蓄電池を実現するための戦略が見つかった。試作品もある。

 米テキサス大学オースチン校Cockrell School of Engineeringの教授で、リチウムイオン蓄電池の父でもあるJohn Goodenough氏の研究チームの成果だ(図1)*2)

 現在のリチウムイオン蓄電池の少なくとも3倍のエネルギー密度を備えていることを試作品で実証、充電時間を数時間から数分へ短縮できるとした。充放電回数は1200サイクル以上を実証し、−20℃でも動作する。再生可能エネルギーに由来する電力の蓄積から電気自動車用まで幅広い用途を期待できるという。

*1) リチウム金属負極だけを対象とした重量エネルギー密度は、1キログラム当たり8500ワット時だった。
*2) 英国王立化学会が刊行するEnergy&Environmental Science誌に論文が掲載された。M. H. Braga, N. S. Grundish, A. J. Murchison and J. B. Goodenough(2017),"Alternative strategy for a safe rechargeable battery" Energy Environ. Sci., 2017,10, 331-336, DOI:10.1039/C6EE02888H


図1 John Goodenough氏(左)と固体ガラス電解質を開発したMaria Helena Braga氏 Goodenough氏は94歳だが研究の第一線で成果を挙げた 出典:The University of Texas at Austin

安全で高性能な蓄電池へ至る長い道

 リチウムイオン蓄電池の研究開発では常にエネルギー密度が最も高くなるリチウムの潜在能力を引き出しながら、いかに安全性を保つかが鍵だった。

 英オックスフォード大学の教授だったGoodenough氏と、留学後、同氏の研究室に所属していた水島公一氏が1980年に発明したコバルト酸リチウム正極がなければ、今日のリチウムイオン蓄電池はなかっただろう。だが、金属リチウム負極と組み合わせると、安全性が確保できない。1985年の炭素系負極の発見を経て1991年の商品化へとつながっていった。

 リチウムイオン蓄電池は、現在でも利用環境に適した設計・製造・運用が施されていないと爆発や火災を引き起こす。ノートPCや航空機、スマートフォンでの事故事例は数多い。

 今日のリチウムイオン蓄電池は、液体電解質を経由して、負極と正極との間でリチウムイオンが移動することで動作する。充電時には外部電圧によってリチウムイオンが負極へ強制的に移動し、放電時(利用時)には自発的に正極に向かう。

 充電や放電の速度が高すぎると樹木状の金属リチウムの筋「デンドライト」や針状の「ウィスカー」が生成し、電解質を横切って負極と正極が直接つながってショートを起こす*3)。これをどうしても避けなければならない。

 研究チームが開発したのは、このようなデンドライトやウィスカーを形成しないガラス電解質だ。負極に金属リチウムそのものを用いているにもかかわらず安全に動作する。材料は全て不燃性だ。

*3) 一般のリチウムイオン蓄電池では充放電速度が高くなりすぎないように回路で制御することに加え、樹脂製のセパレーターを負極正極間にはさみこむことでこの問題を解決している。セパレーターにはリチウムイオンだけを通す細かい穴が空いている。

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