製鉄プロセスのCO2排出削減へ、分離回収技術の実用化に道筋:エネルギー管理
NEDOが進めている製鉄高炉のCO2排出量削減量およびCO2の分離回収技術の開発プロジェクトで、一定の成果が出た。現在千葉県に建設した試験高炉において、検証している技術の効果を確認できたという。NEDOが掲げる「2030年に鉄鋼業のCO2排出量を30%削減する技術の確立」という目標の実現を後押しする成果だ。
鉄鋼業が排出するCO2量は、産業・エネルギー転換部門の中で最も大きい。2013年度実績では1.8億トンで、これは日本のCO2排出量の14%を占める。既に日本の鉄鋼業は世界の中でも生産におけるエネルギー効率はトップクラスだが、将来のさらなるCO2排出量削減に向けた技術革新が模索されている。
鉄鋼業のCO2排出量削減に貢献する技術の1つとして注目されているのが、CO2の分離回収技術だ。NEDOは2013年度から、新日鐵住金、JFEスチール、神戸製鋼所、日新製鋼、新日鉄住金エンジニアリングなどと共同で、千葉県君津市に建設した試験高炉でCO2排出量を削減する生産技術と、CO2を分離回収する技術の実証研究を進めている。このほど、試高炉での2回の試験操業が完了し、開発中の技術の有効性を確認できたと発表した。
このNEDOプロジェクトでは、製鉄プロセスにおけるCO2排出量を30%削減できる技術の開発を目標としている。2008〜2012年度に実施した第1期の期間では、要素技術の開発を進めてきた。2013〜2017年度で実施する第2期では約160億円を投じて、試験高炉を建設して第1期で開発した要素技術の検証と課題の抽出を進めている。
試験高炉は2016年度に、新日鐵住金が所有する「君津製鉄所」(千葉県君津市)の構内に建設している。実高炉の数百分の1の大きさの高炉だ。この試験高炉を使用し生産プロセスのCO2排出量削減技術については、水素を鉄鉱石の還元材として利用することでコークス使用量を削減し、高炉からのCO2排出量を削減する技術の検証を進めている。分離回収技術については、吸収液を利用して高炉から排出されるガスからCO2を取り除くという仕組みだ。
試験高炉で2回の実証を行ったところ、主に水素還元などの送風操作により、生産プロセスにおける炭素消費原単の削減を確認できた。これにより高炉からのCO2排出量削減目標を達成する見通しを得られたという。
排ガスからの分離回収技術については、低い温度での反応性に優れる吸収液の開発などにより、1トンのCO2に対する分離回収コストを2000円以下にするという目標を達成できる見込みを得られたとする。
NEDOは2017年度も引き続き試験操業を行い、操業条件を見極めることにより水素還元効果およびCO2分離・回収効果を検証していく。2030年頃までに目標であるCO2排出量を約30%削減する技術を確立し、2050年までの実用化・普及を目指す。
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