変換効率の壁を突破、「カーボンナノチューブ光触媒」でCO2フリー水素製造に成功:自然エネルギー
岡山大学大学院の高口准教授らは、太陽光スペクトルの大部分を吸収可能なカーボンナノチューブを光吸収材材料に用いたエネルギー変換技術により、水から水素を製造することに成功した。
太陽光エネルギー変換効率50%の鍵になるか
「水素社会」へ向けた社会インフラの構築が始まる日本。しかしCO2を排出しない水素製造法は、成熟した技術があるとは言い難い。現状は、天然ガスを原料としたスチームリフォーミングなどの手法で製造されており、製造過程でCO2が排出されるからだ。
岡山大学大学院の高口准教授らの研究グループは2017年3月、太陽光スペクトルの大部分を吸収可能なカーボンナノチューブを光吸収材材料に用いたエネルギー変換技術により、水から水素を製造することに成功したと発表した。同研究成果により、光触媒を利用したCO2フリー水素製造技術への応用が期待できるという。
岡山大学のリリースによると、日本は太陽光エネルギーを活用した水の光分解による水素製造技術において、世界トップレベルであるが、水素社会を支えるために必要な生産性の実現には至っていない。同研究グループは「基盤技術の鍵となる太陽光エネルギー変換効率は、光触媒の活性波長によって決まる」と語る。
太陽光エネルギーの変換効率は、紫外光から近赤外までの太陽光スペクトル(300〜1300nm)を有効に活用できれば、大幅に向上するという。そのため酸素発生光触媒と水素発生光触媒の2種類の光触媒を組み合わせた2段階光隆起を利用することで、低エネルギーの光(500nm以上の光)を有効活用するシステムが注目を集めている。
しかし現在利用可能な2種類の光触媒の吸収波長は550nm以下であり、同じ波長域の光エネルギーを2種類の光触媒で奪い合うため、エネルギー変換効率の向上に限界がある。
同研究グループは、可視光から近赤外光まで幅広い光吸収帯を持つカーボンナノチューブ(CNT)を利用した水素発生光触媒を開発。CNTの光吸収帯を利用した水素製造が可能なことを実証し、太陽光エネルギーで未利用部分の利用ができることを明らかにした。光触媒を利用した水素製造技術に利用可能な光の波長域が、緑色程度(〜550nm)から近赤外領域(〜1300nm)まで拡張されたのだ。
活性波長が400nm以下の光触媒では、太陽光エネルギーのうち2%しか利用できない。活性波長域600nmでは同16%、800nmになると32%まで利用できるといわれている。
同研究グループは「カーボンナノチューブ光触媒を利用することで、これまで使うことのできなかった波長(540〜1300nm)の光を使うことができたならば、太陽光エネルギー変換効率50%を実現するブレークスルー技術になり得る」とした。
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