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次世代有機EL材料、発光メカニズムの謎が解明省エネ機器(2/2 ページ)

産業技術総合研究所と九州大学は2017年5月、次世代型有機EL素子の発光材料として注目される熱活性化遅延蛍光(TADF)を出す分子の発光メカニズムを解明したと発表した。

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過渡吸収分光法で状態の変化を観測

 九州大学と産総研では、8種類の分子に超短パルスレーザーを照射して励起したのち、その状態の時間変化を過渡吸収分光法により観測した(図2)。その結果、TADFを強く発光した分子群にのみ、プラスの電荷であるホールが分子内で自由に移動できる「電荷非局在励起種」が生成。TADFを発光しない、弱く発光する分子群ではホールが自由に移動できない「電荷局在励起種」や「中性励起種」しか観測されなかったという

 つまりTADFの発光には、電荷非局在励起種が関係していることを示している。


図2:過渡吸収分光法によって観測された分子の励起種 (クリックで拡大) 出典:産総研

 過渡吸収スペクトルをさらに考察すると、三重項状態から一重項状態への逆変換は、三重項状態の一種である中性励起種が、一重項状態の励起種とエネルギー的に近いと生じることが分かったとする(図3)。この一重項状態と三重項状態の変換と逆変換は、電荷の分布状態が異なる励起種の間でしか起こらない量子力学の法則にのっとっている。

 「つまり逆変換が室温で起こるかどうかは、一重項状態と三重項状態の電荷分布が異なる励起種間のエネルギー差に着目する必要があり、従来のΔESTの値だけを考えてきたTADFの発光メカニズムの再考を促すものである」(両社)


図3:パラ体構造の導入によるTADF発光メカニズムの模式図 (クリックで拡大) 出典:産総研

 また、一重項状態のエネルギーを三重項状態の中性励起種のエネルギーに近づけるには、分子にパラ体構造を導入して電荷非局在励起種を形成することが有効という。

 TADF分子の設計では、パラ体構造を導入することが高効率なTADF発光につながる。今回得られた知見に基づいて、さまざまな発光色で高い発光効率と材料の耐久性を兼ね備えた高性能なTADF分子を作製できると考えられる。有機ELデバイスの大幅な低コスト化、有機半導体レーザーなどの次世代光デバイスの実現が期待できるとした。


従来考えられてきたメカニズム、今回明らかになったメカニズムの模式図 (クリックで拡大) 出典:産総研

 今後は過渡吸収分光装置の高度化と並行して、より詳細な観察を進め、励起状態の変換が高効率に起こるTADF分子の体系的な設計指針を構築する。TADF分子の設計にフィードバックし、高い発光効率と耐久性を持つ材料開発も支援するとした。なお今回の成果は産総研 ナノ分光計測研究グループ の細貝拓也氏と松崎弘幸氏、九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センターの中野谷一氏、安達千波矢氏らによるものである。

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