高容量の次世代リチウムイオン電池、産廃シリコンで実現:蓄電・発電機器
慶應義塾大学の研究グループは、廃シリコン粉末から単結晶シリコンピラーを形成する手法の開発に成功した。リチウムイオン電池の容量を数倍にできると期待されるシリコン負極の実用化課題をクリアする、新しい製造プロセスとして期待できるという。
リチウムイオン電池の性能を高める手法として、シリコンを利用した負極の研究開発が進んでいる。容量を従来の3倍程度に高められる期待がある。しかし、充電時にリチウムを貯蔵すると体積が3倍以上に増えることで電極が割れ、導電経路が崩壊してしまう。これによる電池寿命の急速な低下を避けるためには複雑な負極の構造をとる必要があり、コストがかさむ点などが課題となっている。
こうした課題をクリアできる可能性がある研究成果を、慶應義塾大学 理工学部機械工学科の閻紀旺(やん じわん)教授の研究グループが2017年7月に発表した。体積膨張を完全に緩和できる単結晶シリコンピラー(シリコンで作る微小柱)の形成に成功したという。原料には産業廃棄物として処分されている、廃シリコン粉末を活用しているのが特徴で、高容量、長寿命かつ低コストのシリコン負極を作るための新しい製造プロセスとして期待できるとしている。
半導体デバイスや太陽電池の生産では、単結晶シリコンのブロック(インゴット)を切断し、シリコンウエハーを製造する。その際に、粒径サブミクロン〜数ミクロン程度のシリコン粉末が大量に発生する。現在そのシリコン粉末は、砥(と)粒などの不純物を含むことから再びインゴット生産に再利用されることはなく、産業廃棄物として処分されている。
研究グループはシリコン粉末に導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリイミドを加え集電体として銅箔(はく)上に塗布し、これに対してレーザー照射を行うことで、シリコンマイクロピラーを形成する手法を確立した。
レーザーを吸収した最表面のシリコン粒子は加熱され、融点を超えると溶融する。このとき、粒径が小さい粒子は素早く蒸発するが、大きい粒子は溶融し、液相となる。液相となった粒子は周囲の粒子を取り込みながら沈殿していき、凝集しつつ銅箔表面に達する。一方、導電助剤として加えたアセチレンブラックはレーザー照射で気化し、高圧プラズマになる。このプラズマの圧力によって液相のシリコンはピラー状に成長し、液相シリコンの再凝固によって、シリコンマイクロピラーが形成されるという仕組みだ。
このように形成されたマイクロピラーの周りには十分な空間が存在するため、充電時のシリコンの体積膨脹を緩和・吸収できる。そのため、電極の破壊を防止することが可能であり、シリコン負極を利用したリチウムイオン電池の長寿命化が期待できるという。実際に、研究グループが作成したマイクロピラーをリチウムイオン電池負極に用い、充放電実験を行ったところ、従来の炭素負極に比べて、初期段階において約10倍、190サイクル後でも約16倍の容量を保持していることを確認できたとしている。
なお、研究グループは、さまざまな条件でレーザー照射実験を行った結果、異なる形状や大きさ、傾斜角度を有するシリコンマイクロピラーの形成にも成功している。集束イオンビームを用いてピラーを切断し、透過電子顕微鏡や電子線回折などで分析を行ったところ、シリコンピラーは単結晶構造を有していることも確認した。
今後は開発したシリコンピラーシートをリチウムイオン電池負極として使用した際の電池性能のさらなる向上を目指し、廃シリコン粉末の前処理技術や銅箔への塗布技術、シリコンピラーのアモルファス構造化するための結晶性制御技術などについての研究を行い、実用化を目指すとしている。
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