木質バイオマスの熱電併給、事業採算の評価ツールを無償提供:自然エネルギー
森林総研は木質バイオマスを利用した熱電併給事業の事業採算の評価ツールを開発。無償提供を開始した。
森林研究・整備機構森林総合研究所(森林総研)は、北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場(道総研林産試)と共同で、木質バイオマスを用いた発電・熱電併給事業の採算性評価ツールを開発。無償提供を開始した。
2012年7月に始まった「再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)」では、木質バイオマス発電が買い取りの対象となり、間伐材などの未利用材を燃料とする木質バイオマス発電施設が全国各地で稼働を始めた。ただ、ほとんどの施設は発電だけを行っているため、熱効率(発電効率)は25%前後と低くなっている。
これに対して、電力と同時に熱を利用する熱電併給は、小規模でもエネルギー利用効率が高いことから、最大80%前後の熱効率を実現するなど、経済性の向上が期待できる。一方、熱電併給事業を行う場合、発電量と熱利用のバランスの評価や、熱の供給先の選定や契約交渉なども必要になる。現状、売電と熱供給を併せて事業採算性を評価するツールがなく、事業の検討を円滑に行えない状況にあった。
蒸気タービンを用いた熱電併給プラントは、ボイラーで生産した蒸気をタービンに投入する工程までは発電プラントと同じだ。しかし、熱利用のために低圧の蒸気を一定量タービンから抜き取ると、発電量が低下する。こうした発電量の低下による収入の減少と熱利用による収入の増加を推計するには、ボイラー主蒸気の条件、抽気量、復水器の真空度などに関する計算式が必要となる。森林総研は木質バイオマス発電事業の採算性評価ツールを開発し、2015年10月より無償公開を始めているが、これまでコージェネレーションなどの熱電併給事業には対応していなかった。
そこで、森林総研の評価ツールと、市販の熱収支計算ソフトを組み込んだ道総研林産試の「木質バイオマス発電・熱電併給事業評価シミュレーター」を融合し、新たに熱電併給事業の評価ツールを開発した。Microsoft Excelをベースとするツールで、損益計算に関する関係式の改良を行い、詳細な条件設定が簡単に行えるようになった。入力項目には、初期値が入力されているが、任意の値に変更可能で、ユーザーの想定する発電事業を再現できる。これにより原料の条件、蒸気の抽気条件、熱の販売単価などを変えることによって、電力だけでなく熱(蒸気や温水)の供給を行う事業の採算性を簡便に評価できるという。採算性の評価期間は最大40年間で、燃料価格やFIT価格の変動に対応した試算も可能だ。今後、各地域の原料・熱利用事情に合わせた、比較的小規模な熱電併給事業の検討に活用されることが期待されている。
なお、既存の木質バイオマス発電事業でも、燃料の種類・組み合わせの変更や価格上昇、FIT期間20年間終了後の売電価格の変動などによる影響の評価に利用できる。
評価ツールは森林総研のWebサイトから、アンケートに応えるとプログラムファイルとマニュアルを無償で受け取ることができる。
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