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中国での流通システム展開のポイントITソリューションフロンティア:海外便り

» 2004年10月12日 00時00分 公開
[伊達一朗,野村総合研究所]

熾烈さを増す競争環境

 中国と同じく北京語を公用語とする台湾では、1990年代後半から中国進出を本格化させてきた。たとえば中国で4 店舗をもつ太平洋百貨は、2002年の売上が約35億人民元(約525億円。中国チェーン店経営協会資料)、上海店は上海地区でトップの売上である。また人材の面でも、サービス産業を中心として、欧米系の企業で台湾人が幹部に登用されている例は少なくない。2001年以後は、WTO加盟によって中国の規制撤廃が進むという見通しのもとで、台湾ばかりでなく日本や韓国からも、流通・サービス業の進出が加速している(表1参照)。

表1

 海外からの進出が進む一方で、中国現地の流通業も負けてはいない。外資への規制が完全撤廃される前に市場で優位に立つという目論見から、次々と出店を加速している。

日本に期待される老師的役割

 競争が激化する一方で、業務の現場ではさまざまなことが起きている。たとえば、マスター登録担当者が自分勝手に付番して商品登録するというような、日本では考えられないトラブルも中国では珍しくない。日本の流通業は約30年の歴史のなかで試行錯誤を重ねながら現在の業態を確立してきたが、中国ではさまざまな流通業が一気に立ち上がったため、スーパーやコンビニの業態の差異なども消費者に正しく認知されていないのが現状である。

 10年前に一斉にPOSシステムを導入した台湾でも、当初はPOSシステムの使い方についてのコンサルテーションのニーズがあり、野村総合研究所(NRI)でも、POS情報をどう活用するかといった支援を継続的に行ってきた。その経験から言えば、単にシステムを作って動かすだけでなく、誤った方向へ行かないように、業務に入り込んで軌道修正してくれる、老師(先生)のような立場での関わり方が、現地の人々との関係で大きな意味をもつ。日本人システム技術者に対しては、業務とシステムを「つなぐ」役目としての期待が高いことも知っておく必要があろう。

現地事情の理解が大切

 「事前のアナウンスもないままコンピュータの電源が落とされ、システムがダウンした」。システムの現場でも、このような予期せぬトラブルはよく起きる。社会インフラや文化的習慣は各国それぞれに事情があり、日本の常識が通用しない場面は数多い。亜熱帯に位置する台湾では、真夏には電力供給が逼迫して停電が発生し、現場が大騒ぎになるといったことがよくあった。堅牢なデータセンターで、二重三重の障害対策を講じ、24時間監視体制のもとで安定運用するという考え方が浸透してきたのも、台湾ではつい最近の話である。

また、人材の面でもギャップはある。コーディング能力の高い人、インフラ技術に詳しい人など、能力の高い人材は数多くいるが、周りとのコミュニケーションが円滑に行え、またシステム安定運用の大切さを理解し、トラブル時の緊急性をすぐに見極められる人材は少ない。経験を積み重ねてこそできるシステム面での指摘や判断といった、プロジェクトマネジメント的なサポートへの期待は、すでに10年の経験を経た台湾でも大きいものがある。

急ぎすぎないことも肝心

 熾烈な競争のなかで、中国で日々予期せぬトラブルと格闘している海外の進出企業にとって、事業の立ち上げ当初は手探り状態であり、軌道に乗るまではシステムに十分なコスト・人員を割り当てられないのが実情であろう。物価水準は日本の約3分の1、インフラの整備も不十分ななかで、スピード感を維持しながらシステム支援を継続していくためには、いかに早く、低コストで、小回りの利くソリューションを数多く提供できるかが重要になる。肝心なのは、当面は基本的な業務を確実に遂行できることにシステムの目標を置くことであり、枝葉の部分は安価な人手に委ねることも考えるべきである。また、中国の開発拠点を活用してコストを抑えるほか、パッケージも組み合わせて、なるべく新たに作らずに既存のシステム資産を活用するという視点も、ここしばらくは必要であろう。

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