多くのPCメーカーがAI PCの開発に力を入れている現在、Microsoftは「Copilot+ PC」という新たなクラスを打ち出してAI PC市場をリードするという意思を明確に示している。PCの処理能力が進化する中、GPUだけでなくAI処理に特化したプロセッサ「NPU」(Neural Processing Unit)を統合した次世代のPCも登場し、AIのワークロードを効率的に処理できるようになってきた。
MicrosoftのPCブランド「Surface」の事業をグローバルゼネラルマネジャーとして率いるSandra Andrews(サンドラ・アンドリュース)氏に、MicrosoftのAI PC戦略やCopilot+ PCの価値、今後のビジネスの展望について語ってもらった。
──Surfaceの歴史と現在のポジショニングについて教えてください。
アンドリュース氏: Surfaceは2012年に初めて発表したPCブランドで、タブレットでもラップトップでも使える2 in 1デバイスとしてリリースしました。当時は、タッチスクリーンとペンの機能が標準搭載された極めて意欲的な製品でした。高解像度のディスプレイやカメラ機能も備えており、画期的でプレミアムなデバイスとして市場に受け入れられました。
そして現在、MicrosoftはCopilot+ PCというPCの新クラスを打ち出し、AIが完全に組み込まれたSurfaceの最新モデルを発表しました。Copilot+ PC はCPUとGPU、さらにはNPUを盛り込んで設計しています。AI用のプロセッサとしてはGPUが最もよく知られていますが、現在はAIのローカル処理に強みを持つNPUも普及しつつあり、CPUとGPU、NPUを全て備えたデバイスがこれからのAI時代においては必要だと確信しています。
MicrosoftのSandra Andrews氏(Global GM, Surface Go-To-Market)。取材は、2025年3月27日に東京ビッグサイトで開催された「Microsoft AI Tour 2025 Tokyo」に合わせて同氏が来日した際に実施した──Copilot+ PCの最初の製品として発表されたSurfaceには、Qualcommの「Snapdragon Xシリーズ」が搭載されました。さらにIntelの「Intel Core Ultra プロセッサー」を採用したモデルも展開されています。狙いをお聞かせください。
アンドリュース氏: Snapdragon搭載の製品とIntel Core Ultra搭載の製品を提供することで、お客さまに多くの選択肢を提供したいと考えています。SnapdragonもIntel Core Ultraも、優れたAI機能を活用したいと考えるお客さまの期待に十分応えられます。どちらの製品も、Microsoft 365で利用可能なAI機能やWindows 11に新たに搭載された「Click to Do」「Recall」などのAI機能を自在に使えます。
──Copilot+ PCには「45 TOPS以上」など幾つかの技術的な要件が定義されており、従来のAI PCよりも高いスペックが求められています。従来のAI PCとは異なるクラスをあえて設けた意図は何でしょうか?
アンドリュース氏: 従来のAI PCのカテゴリーに当てはまるSurface製品は、10 TOPS(1秒当たり10兆回の演算処理能力)のAI処理能力を持っています。その一方で、Copilot+ PCのクラスに属する製品は「45 TOPS以上の処理能力」「16GBのメモリ」「256GBのストレージ」といったスペック要件を満たしています。
Copilot+ PCはこのような高いスペックを備えることで、単にAIの処理を可能にするだけでなくWindows 11やMicrosoft 365のAI機能の価値をフルに引き出し、重要なセキュリティ強化も実現します。Copilot+ PCはNPUを搭載しており、多くのベンダーやメーカーがNPUのランタイムを使って独自のAI開発を始めています。これらとCopilot+ PCを活用すれば、ユーザーはデバイス上で、あるいはクラウド上でさらにAIの恩恵を受けられるようになります。
──NPUを使ったAI開発の具体例を教えてください。
アンドリュース氏: 金融業の事例が挙げられます。ローカル環境のNPUを活用して言語モデルを開発することで、データをデバイス上でセキュアに扱えるようになりました。ローカルAIとクラウドベースのAIを組み合わせて活用する方法も有効です。ローカルでできるものはローカルで行い、必要なときにクラウドサービスを柔軟に利用する――といった運用が実現すれば、コストを抑え、安全かつ迅速なAI処理ができるようになります。
──非常に先進的で興味深い事例ですね。ユーザーから「NPUでもっとこんなことができたら」というフィードバックを受けて、取り組みを進めた例はありますか?
アンドリュース氏: そうですね。NPUでDeepSeekの言語モデルを開発する取り組みやWindows CopilotをNPUのランタイム上で動作させるといったものがあります。前提として、最近はアプリケーション開発にNPUを活用するケースが増えており、これまでにない規模でより多くのAIアプリケーションが誕生しています。
──NPUを活用したAI開発が各社で進んでいるのですね。
アンドリュース氏: そう思います。Microsoftが2024年に開催したイベント「Microsoft AI Tour」では、ローカル環境のNPUを使って構築されたソリューションを展示しているベンダーは極めて少数でした。しかし2025年に開催したMicrosoft AI Tourの展示会場を見渡すと、多くのベンダーがローカル環境のNPUを活用して開発した言語モデルを展示していました。この1年で、NPUを活用したAI開発は急速に増加したと言ってよいでしょう。
AI開発のテクノロジーは日進月歩です。私たちは今、まさにAI革命の始まりを目の当たりにしているのです。
──アンドリュースさんはこれまで、リテールやヘルスケアなどの業界で新製品の立ち上げに成功されてきたと伺っています。Copilot+ PCのフラグシップ製品であるSurfaceのマーケティングを、どのように成功させたいとお考えですか?
アンドリュース氏: 私はこれまでの仕事の中で、常にテクノロジーを使って人々の生活を向上させることに取り組んできました。リテールであれヘルスケアであれ、人々の生活を豊かに、便利にすることがゴールであり、テクノロジーはそのための極めて有効な手段の一つです。
Surfaceは、人々の体験を向上させることが既に明らかです。Surfaceの優れたハードウェアとソフトウェアの組み合わせ、タッチスクリーンやペンなどの優れたユーザーインタフェース、豊富な事例やユースケースなどが、Surfaceが人々の生活を豊かにできることを示しています。故に、Surfaceのマーケティングを成功させることは「比較的簡単だ」と考えています。
──製品への自信が、マーケティングの成功への確信につながっているのですね。
アンドリュース氏: はい。どのような業界であってもGo to Market戦略はシンプルで、ユーザーに納得してもらえるような、心に響く製品を届けることが肝要です。そして現在のAI時代において、Surfaceのようなデバイスの必要性が高まっていることは言うまでもありません。
──Microsoftは多くのPCメーカーにWindowsを提供していますが、「Surfaceのビジネスがうまくいき過ぎると他社のWindows PCが売れなくなってしまうのではないか」という懸念はありませんか?
アンドリュース氏: ありません。Microsoftは、Surfaceを自動車レースにおける「ペースカー」として位置付けています。Surfaceは「Windowsを使ってこんなことができる」というサンプルを示すショーケースであって、他のWindowsデバイスと競争してシェアを奪うようなものではないのです。
SurfaceはWindowsエコシステムの一員として、最もプレミアムなユーザー体験を提供することを目指しています。私たちは、この魅力的なデバイスを軸に据え、パートナー各社と密接に連携して非Windows OSを提供する競合に対抗する戦略を取っています。
──2025年にSurfaceの販売やCopilot+ PCクラスの普及に向けて注力したいことを教えてください。
アンドリュース氏: ≫2025年はCopilot+ PCのビジネス規模をさらに拡大していきます。そして、Surfaceがその取り組みをリードするドライバーになると考えています。Snapdragonを搭載したコンシューマー向け製品に加えて、Intel Core Ultraを搭載したさらに上級向けの製品も提供してユーザーの幅広いニーズに応えていきます。
──どのようなビジネスシナリオでSurfaceを使ってほしいですか?
アンドリュース氏: フィールドセールス、データアナリスト、ソフトウェア開発者などの特定ペルソナのビジネスシーンに焦点を当てています。
Microsoftは多くの顧客との対話を通じて、「ユーザーペルソナに基づいたAI活用方法の検討」「セグメント別の適切なデバイスと使用方法の決定」「Copilotダッシュボードを通じたAI使用状況のトラッキング」といったアプローチを取っています。どんなユーザーがどのようにAIを活用すれば企業にとって最大のリターンが得られるかを分析して、スーパーユーザー、つまりAIを特に効果的に活用しているユーザーを見つけ出しています。
AIによって大きな恩恵を得ているユーザーは、ROI(投資利益率)を最速で向上させます。私たちはPwCと協力して、企業向けのAI活用フレームワークを構築し、フィールドセールスやデータアナリストを含む6種類のペルソナを特定しました。この取り組みを通じて、Surfaceデバイスを持っているユーザーは持っていないユーザーと比べてAIを活用する割合が高い傾向にあるということも分かっています。
──Copilot+ PCの主要なターゲット業種はありますか?
アンドリュース氏: もちろん、AIの採用が進む全ての業種で活用してもらいたいと思いますが、主要な分野としてはコンサルティングや研究領域などを挙げています。Copilot+ PCが高度なセキュリティ要件を満たしているという観点から、金融業にもフォーカスしています。Surfaceのペンやインキング機能を使ったレッスンプランの作成に需要がある教育分野でのさらなる普及も見込んでいますね。
──ありがとうございました。最後にメッセージをお願いします。
アンドリュース氏: Copilot+ PCおよびSurfaceは、Microsoft 365やMicrosoft Teams、Windows 11のAI機能を積極的に活用したいと考えているユーザーであれば特に大きなメリットを享受できるでしょう。Microsoftはさまざまな分野でAIの採用が進むように、Surfaceの開発と設計に取り組んでいます。今後の進化にご期待ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2025年9月29日