ゲームデバッグ専門の会社として1994年に設立されたポールトゥウィン。国内においては主要パブリッシャーのほぼ全てを顧客とし、ゲームデバッグで圧倒的な実績を誇る企業だ。全国20以上の拠点でサービスを提供し、従業員数は約5000人に上る。同社のQA・ソフトウェアテスト事業は、祖業であるゲームデバッグ事業を基盤に、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)領域へと事業を多角化する中で、主要事業の一つとして展開されてきた。高い検証スキルを有するテスターやQA(品質保証)エンジニアを多数抱え、テスト計画からテスト設計、テスト実施までのサービスを提供している。
近年のソフトウェア開発においては、プロダクト数の増加、プロジェクト規模の拡大、デリバリーの高速化が進み、「企画、設計、開発、テスト、デリバリー」のサイクルを数週間で回すアジャイル開発が主流となりつつある。ソフトウェアテストも、期間が1日〜数時間にまで圧縮され、各工程に携わるエンジニアのリソース不足が深刻化している。
こうした危機的状況が、生成AIの登場によってパラダイムシフトを迎えようとしている。ポールトゥウィンはソフトウェアテストサービスを提供する企業として、AI技術による大きな変革に備えるためのR&D(研究開発)組織「先端技術研究室」を立ち上げた。
開発者の間で生成AIの活用が進む中、これまでのソフトウェアテストや品質保証の取り組みはどう変わるのか。ポールトゥウィン先端技術研究室の室長を務める久保雅之氏に話を聞いた。
生成AI活用は、業務効率化を進めて自社を強くする“守り”の用途と、生成AIを取り入れた新しいプロダクトを開発して利益拡大につなげる“攻め”の用途に大別できる。先端技術研究室は、この両軸を見据えてポールトゥウィンの事業活動の全域にAI技術を安全に取り入れ、普及させる役割を担う、部門横断的な組織だ。
“守り”の観点では、人事、法務、経理、情報システム、マーケティングなどの部門における基幹業務の効率化を目指す。具体的な実装方法を関係部署に提示するために、生成AI技術の特性を理解した上で、自社のビジネスに取り込むための技術選定と導入計画の策定、人材育成や社内広報活動などの取り組みを進めている。
“攻め”の観点では、日々新しく登場する生成AI技術や製品をリサーチし、競争力強化につながる新たな事業の柱になりそうな技術の研究と開発に取り組んでいる。世界中の200以上に及ぶ生成AI技術と製品について、フィジビリティスタディーを行い、製品化に向けたPoC(概念実証)をしたり、Minimum Viable Product(MVP:ユーザーに必要最小限の価値を提供できる製品のこと)の試作にも取り組んでいる。
新技術に関する安全性の調査も、先端技術研究室の重要な役割だ。「生成AIの回答を100%信じていいのか」「LLM(大規模言語モデル)に機密情報や個人情報などを投入して大丈夫か」など、法的リスクやセキュリティ、ガバナンスなどの視点で細かく検証し、技術的な解決策を見いだす。「生成AIは非常に進化の早い分野であり、日々新しい技術が次々に登場しており、キャッチアップするだけでも大変な状況です。実際に導入するとなると、生成AIのハルシネーション(AIが事実と異なる情報を生成する現象)に対する品質検証やセキュリティリスクはもちろん、AIに投入するデータ活用に関する法律面の問題や透明性、中立性など、セキュリティ監査室や法務部など関連部門を巻き込んで検証しなければいけない要素は多岐にわたります。先端技術研究室はAI自体の品質保証(QA for AI)に向けて、こうした役割を一手に担っています」
ポールトゥウィンは、次の4つの事業部で構成されている。
この4事業の中で成長が著しいのはQAソリューション事業で、同社としても引き続きエンタープライズ領域のソフトウェアテストサービスに重点的に取り組む計画だ。
先端技術研究室はこれら4つの事業体に対して組織横断で関わり、AI技術による業務効率化や収益成長の促進に向けた企画立案をサポートしている。例えばゲームデバッグであれば、生成AIを用いて膨大な量のバグレポートから誤りを見つけて修正したり、テンプレートを利用してバグレポートを半自動で生成したりする。QAであれば、テスト自動化のためのテストシナリオ設計やテストコード自体を自動生成するといったAI活用の社内提案をし、業務効率化や生産性向上を推進する形だ。
情報システム部門にとって、事業部門のツール導入を適切に管理することはガバナンス強化の基本だ。生成AIについても、各部門が個別に導入を進めた結果、意図せず業務データがLLMの学習に使われていた、という事態は回避しなければならない。しかし生成AI活用を過度に恐れて過剰に制限をかけてしまうと、本来得られる可能性のある成果や効率化の機会を手放すことになりかねない。「LLMの利便性は損わず、セキュリティを担保するために、用途に応じてローカルLLMを活用したり、データの機密性を担保した上で商用LLMを利用したりと、ガバナンスを保ちつつ、用途に応じてAI利用を使い分けています。先端技術研究室では、外部の研究機関やアカデミアなどと協業し、AIツールのレビューやサーベイを実施した上で、安心して利用できるものを厳選して社内展開しています」と久保氏は説明する。
ソフトウェアテストの領域でもAI技術や自動化技術を積極的に取り入れている。これまで「テスト自動化」と言えば、マニュアルテストを自動化するためのコードをエンジニアが手ずから書くものだった。しかしコーディング作業を助ける生成AIの登場によって、これらの工数は大幅に削減され、エンジニアの生産性を引き上げている。AIを利用したソフトウェア開発は「AI駆動開発」や「Vibe Coding」と呼ばれ、今やソフトウェア開発の世界ではその活用が積極的に議論されている。
AIが誤った出力をもたらすハルシネーションの問題についても、強化学習を施したり、検索拡張生成(RAG:Retrieval-Augmented Generation)によって矯正したりすることで、高精度かつ効率的にテストシナリオやテストコードを作成することが可能になりつつある。さらに「近ごろは自律的に意思決定を下して行動できる『エージェンティックAI』が登場し、ソフトウェアテストの在り方そのものに変化が生じています」と久保氏は語る。
従来、エンジニアの要求とそれに対するアウトプット(生成されるテストコード)は1対1で、あくまでそれらを組み合わせてソフトウェアテストを実行するのはエンジニアだった。しかしエージェンティックAI技術によって、この常識も変わろうとしている。「仕様書を解読するAI」「その反応を見てテストを設計するAI」「設計に従いテストコードを生成するAI」「テストを実行するAI」「バグの発見と報告を繰り返すAI」など、それぞれが異なるミッションを連携させて遂行し、適切なコードを自動生成し、これらの業務プロセス全体をオーケストレーションする高度な自動化も基本技術は存在しており、一部は実用段階に近づきつつある。
「開発工程においても生成AI活用は進んでいます。エンジニアが生成AIに対して特定の要件を提示することで、企画から設計、実装、テストまでを一貫して支援する技術の実現が視野に入ってきました。今はまだ技術検証しながらR&Dを進めている状況ですが、将来的には実用化に向けた具体的な道筋が見えてくると考えています」
ソフトウェアテストの自動化・無人化は、ポールトゥウィンが抱えるテスターの負担を軽減し、業務効率化のメリットをもたらす一方で、自分たちの存在価値を揺さぶることにもなりかねない。「生成AI活用による自動化・無人化の流れはもはや不可避です。テストエンジニアにとっては、変化への対応が求められる時代が訪れるかもしれません。しかし私たちはこの問題に真正面から向き合い、QAソリューション事業部の正社員エンジニア数百人を対象にリスキリングを進めています」と久保氏は語る。
具体的には、3種類の自動化ツールを使いこなせるようになるための研修コースを先端技術研究室が独自で作り上げ、社内教育を実施中だ。「この研修は2025年1月から開始し、1年間かけて実施予定です。私自身も講師を務め、4カ月目を迎えました。現在はさらに難易度の高いトレーニングコースも用意し、選抜メンバーの育成にも取り組んでいます」
テスト自動化の普及に伴うリスキリングは、ソフトウェア開発企業にとって避けて通れない道筋だ。ポールトゥウィンは、自社の取り組みで培った知見を生かし、内製QAチームを持つ企業に向けたトレーニングサービスの提供も視野に入れている。「AIを使いこなす」という明確な目標を掲げ、技術研究と人材育成の両輪でまい進する同社の活動は、今後のソフトウェア開発の在り方に新たな可能性を示すものとなるだろう。
第1回:テスト自動化を全エンジニアで使いこなす(@IT掲載)
第三者検証の立場から1歩踏み込む“シフトレフト”の進化アプローチとは――テスト項目消化数4920万以上、不具合検出数197万件以上の実績を持つ「ポールトゥウィン」のQA(品質保証)に迫る
第3回:あらゆる業界で、競争優位性は品質から生まれる(@IT掲載)
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2025年6月13日