「AIエージェントが隣にある世界」はすぐそこに 事例続々 Copilotの最前線をのぞく

PR/ITmedia
» 2025年07月18日 10時00分 公開
PR

 「生成AIは、印刷機以降の知識生活における最も重要な発明である」――Microsoftのブラッド・スミス副社長は、生成AIのインパクトをこう表現したという。本を大量かつ安価に生産できるようになったことで知識や情報の入手が容易になり、社会の在り方が変化した。生成AIも知識へのアクセス方法を一変させ、「AIエージェント」の登場によって社会の在り方がいよいよ変わろうとしている。

photo 日本マイクロソフトの山田恭平氏(業務執行役員 Modern Work GTM本部 本部長)

 そんな折に、AIエージェントの技術や事例を紹介するイベント「Copilot Agent Day with Partner」を日本マイクロソフトが開催した。同社の山田恭平氏は「AIエージェントのPoC(概念実証)を終えた企業が全社導入に向けて動き始めています」と切り出した。グローバルで実施した調査レポート「Microsoft Work Trend Index Survey 2025」を引用し、グローバルの53%のビジネスリーダーが「生産性を向上させる必要がある」、80%のビジネスパーソンが「仕事をするための十分な時間やエネルギーがない」と回答したことに触れ、これらの課題解決策としてAIエージェントに期待が集まっているとした。

 山田氏は、AIエージェントの導入を成功させる手順として次の段階を推奨する。

  • フェーズ1:従業員が効率的に働くためにAIアシスタントを活用する
  • フェーズ2:AIをチームメートに迎え入れ、従業員が指示をしてタスクを振る
  • フェーズ3:従業員が方針を決め、AIエージェントがビジネスプロセスや業務フローを実行する

photo AIエージェントが自律的に連携することで組織が変わる世界「Agentic Web」を目指す流れ(提供:日本マイクロソフト)

 質問に答えるだけだったAIがタスクをこなすエージェントになり、自律的に動作するようになるという展望だ。Microsoftは、この世界観をどのように実現しようとしているのか。Copilot Agent Day with Partnerで、フェーズ2に進み始めている日本企業の事例を交えてAIエージェントの現在地が示された。

Microsoftが描く「エージェントが隣にいる世界」

 「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)が登場したときは「コパイロット(副操縦士)」という位置付けで、個人の業務を効率化させるアシスタントとして浸透していった。その後、WordやPowerPointなどさまざまなアプリケーションにCopilotが組み込まれたことで、AI機能を利用しやすくなった。現在、MicrosoftはCopilotを単なるAIツールではなく「AIにアクセスするUI(ユーザーインタフェース)」と位置付けている。

Microsoftの片山三千太氏(Principal Program Manager Lead, Japan/ANZ M365 Copilot Extensibility Customer & Partner Engineering)

 そんなCopilotの「できること」を増やす拡張機能が「エージェント」だ。Microsoftの片山三千太氏は次のように説明した。

 「Copilotは、Microsoft TeamsのチャットやOutlookのメール、SharePointのファイルなどにアクセスして必要な情報を取得し、それらを基に要約や要約、プレゼン資料の作成などが可能です。一方で、Copilot単体では『CRM(顧客管理システム)に商談内容を入力する』『経理システムで経費精算の処理をする』といった外部のITシステムに保管されているデータを扱うタスクは苦手です。これらを可能にし、Copilotを補完する機能がエージェントです」

photo Copilotとエージェントの関係(提供:日本マイクロソフト)

 「Microsoft 365 Copilot」の専用アプリケーションの他、WordやMicrosoft Teamsなどのアプリケーションで利用できるCopilotに指示を出すと、その裏側でエージェントが動き回るというイメージだ。専用ストア「Agent Store」を通じてMicrosoftやサードパーティー企業が開発したエージェントを入手できる他、各企業が独自に作った社内向けエージェントも利用できる。

 このエージェントが賢ければ、それだけ業務がスムーズに進む。従来のCopilotが利用するAIモデルは一般的な応答なら造作もなくこなしたが、専門性が高い業務を頼むには指示文(プロンプト)を工夫する必要があった。Microsoftは、Copilotが利用するAIモデルに企業独自のデータを追加で学習させることで「AIモデル用のレシピ」を作成し、特定の業務プロセスや専門分野の用語を扱えるようにできる仕組み「Microsoft 365 Copilot Tuning」を開発。組織固有の文化やトーンも反映させられるため、Copilotをチームメートに迎え入れやすくなる。

 エージェントを業務で活用するためには、できることを増やさなければならない。しかし全ての業務をエージェント化するには時間も費用もかかる。業務を段階的にエージェント化して連携させる方法が効果的だ。例えば「銀行業務エージェント」を作って入出金、投資、カード発行など全業務を任せようとするのではなく、「入出金を担当するAさん」「投資を担当するBさん」のように業務別にエージェント化してすることで専門性を高め、それらを連携させることが大事だと片山氏は助言した。Microsoftは、エージェント同士や外部サービスとの連携に必要な基盤や技術も提供している。

 「AIエージェントを業務に取り入れると、仕事のやり方だけではなく組織の形も変わるでしょう。AIエージェントが自律的に動作・連携して、業務を遂行する『Agentic Web』な世界に変わっていくと思います。AIエージェントを取り入れたフロンティア企業への第一歩を踏み出すことが重要です」(片山氏)

Copilotで1日70分削減 エージェントに期待する効果は

photo 日本ビジネスシステムズの加賀裕二氏(DXソリューション推進室長)

 AIを活用している企業はどのような取り組みをしているのか。Copilot登場初期に全社導入を決めた日本ビジネスシステムズでは、約2700人の従業員がCopilotを使っている。例えば営業職のユースケースでは、顧客情報のリサーチ、プレゼン資料の作成、提案書の下書き、メール文面の考案などの用途が中心で、1人当たり1日70分の削減効果があると同社の加賀裕二氏は紹介した。

 日本ビジネスシステムズの月間アクティブユーザーは全利用者の90%に上るが、その実態は「徹底的に使い込む活用層」と「要約など限定的な使い方にとどまる利用層」のギャップが大きかった。「利用層を活性化させて、活用層に引き上げる方法としてエージェントに目を付けました」(加賀氏)

 汎用(はんよう)的なCopilotの応答精度を上げるにはプロンプトを工夫する必要があるが、特定の業務用にチューニングしたエージェントであればプロンプト不要で直感的に要件を問い合せすればタスクをこなしてくれる。定型業務や組織共通のユースケースをエージェント化することで「どのAIをどのように使えばいいのか」と迷うことも減ったという。

 SharePointに保存された情報を基に取引案件の状況を答えるエージェントや、情報システム部門へのFAQを自動化するエージェントなどを構築。「それはエージェントに聞いて」というシーンが増えている。

「鬼店長エージェント」に学ぶ「魂」の吹き込み方

photo 富士ソフトの高野祐一氏(ソリューション本部 MS事業部 副事業部長)

 業務に役立つ優秀なエージェントの作り方を説いたのは、富士ソフトの高野祐一氏だ。専用ツール「Copilot Studioエージェントビルダー」を使えば、頼みたい業務について日本語で説明すればエージェントを作成できる。成否を分けるのが「インストラクション」という指示書の書き方だ。高野氏は「行動指針やナレッジを指定した後、インストラクションで魂を吹き込むことが大切です」と教えた。

 ユニークな例が「鬼店長エージェント」だ。ある小売業の依頼で制作したもので、「敬語は使わずオラオラ口調で話す」などの設定を指示している。実行すると、相談に対して力強い口調でアドバイスをして最後に励ましの言葉をかける。こうしたキャラクター性を強めることで、エージェントに親しみを持てるのだ。

 富士ソフトは、グループ企業のヴィンクスと連携して流通・小売業界向けのAIエージェントを開発している。例えば、「本部業務エージェント」を作ってCopilotから実行すると、店舗のPOSデータを取得してグラフ化し、PowerPointのスライドに落とし込む。業務に合った動作を実装できる点が、Microsoftのエージェントの強みだ。高野氏は「『店舗業務向け』『購買者向け』といったエージェントの開発を進めており、新たな買い物体験の提供や店舗業務の生産性向上を目指します」と展望を語った。

5分でできる有能エージェントの作り方

photo アバナードの馬場拓真氏(モダンワークプレイス Client Solutions グループマネジャー)

 「自分で考えて業務をこなすエージェント」を想像する人が多い中で、「チャットbotに近い姿」を支持したのはアバナードの馬場拓真氏だ。生成AIは優秀であるものの、指定した手順を飛ばしてしまうことが少なくない。Copilot Studioの機能を使えば、こうした手順の抜け漏れといった事態を回避できるため、宅配業者のカスタマーセンターのように情報を正確に回収するような使い方も可能だと馬場氏は薦めた。

 チャットbotに近いAIエージェントは、Copilot Studioエージェントビルダーの機能で実現できる。構築したい「エージェントフロー」を決め、フローチャートを組んでいく。新規Wordファイルを作成するエージェントの場合は、「Copilotから実行する」→「Microsoft Wordテンプレートを利用する」→「ファイルの作成」を選択。フォルダーのパスや名前を指定して、インストラクションなどの指示文を書いた後に「共有」を押せば完成だ。Copilotに「AIとは何ですか?」などと質問すると、生成した回答を転記したWordファイルを作成する。ここまでのデモンストレーションはわずか5分で終わった。

 このようにエージェントを使うと実務を劇的にサポートできるが、企業の共通インフラ・ガバナンスも最適化しなければ恩恵を享受しきれないとも馬場氏は語っている。

CopilotとAzureでセキュアなエージェントを開発

photo 富士通の土井悠哉氏(AI戦略・ビジネス開発本部 VP, エグゼクティブディレクター)

  富士通が開発したのは、指定したPowerPointファイルの内容を基にAIアバターが発表するプレゼンテーション映像を生成するエージェント「Fujitsu AI Auto Presentation」だ。登録した資料の文字数や図をAIが解釈して、時間配分を考慮しつつ自律的にページを切り替えながら内容を説明する。外国の顧客へのプレゼンや多国籍企業の社内会議などでの利用を見込んでいると富士通の土井悠哉氏は語った。

photo ヘッドウォータースの小山剛氏(ITインキュベーション事業本部 ソリューションテクノロジー部 グループリーダー)

 同エージェントを富士通と共同開発したヘッドウォータースの小山剛氏は「Copilotと『Microsoft Azure』の連携が鍵でした」と振り返る。Copilotが窓口になることで、Microsoft Azureに構築したサーバやアプリケーションをシームレスに利用できる。Microsoft 365で設けていたファイルの秘密度ラベルやアクセス権限などの設定を共通で利用できるため、セキュアな環境で利用できる面も強みだという。

AIエージェントは「ジョブ型雇用」が理想的

photo 日本マイクロソフトの石原裕基氏(ビジネス&セールスオペレーション本部 ビジネスプログラムマネージャー)

 AIエージェントの事例が広まる中で、日本マイクロソフト自身も積極的にエージェントを利用している。推進チームを立ち上げて活用コンテストを開催した他、Microsoft製品に実装されているCopilotを全て利用するように促すスタンプラリーなどを企画した。

 同社の石原裕基氏は「コンテストを盛り上げる仕掛けを用意すると効果的です」と伝える。初学者の参加ハードルを下げるために資料やトレーニングを用意したり、ユースケースを特定しやすくしたり、全社のモチベーションを高めるために経営層に参加してもらうなどした。話題を広めるために社内コミュニケーションツールでの社内広報にも注力した結果、Outlookの空き状況を確認する「日程調整エージェント」などユニークなアイデアが集まったという。

photo 日本マイクロソフト社内で使っているユースケースの検討方法(提供:日本マイクロソフト)

photo 日本マイクロソフトの折川穣氏(パートナー事業本部 パートナーソリューション本部 本部長)

 クロージングに登壇した日本マイクロソフトの折川穣氏は「AIエージェントの活用は、人材開発と同じです」とアドバイスした。求める人材の要件を定義して採用し、社内に定着できるようにオンボーディングして、既存の人材とコラボレーションさせる「ジョブ型雇用」に近いのだ。AIエージェントに当てはめると、AIエージェントの能力を指定して業務に組み込み、多数のAIエージェントと連携させるという流れになる。

 AIエージェント導入の波は既に広がっている。そのための技術もある。まずはCopilotなどを使ってみて、社内の反応を見て改善することで、AIエージェント活用を軌道に乗せられるはずだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2025年8月3日