求む、“AIエンジニア”――こんな切実な声を耳にする機会が増えた。人材がただでさえ不足している中、生成AIブームによって、一握りしかいないAIエンジニアに需要が集中して獲得競争が激化しているのだ。
AIによるイノベーションの加速、意思決定の最適化、競争力の強化などを狙う企業が、AIエンジニアの増員を熱望している。選択肢は「新規採用」「従業員の育成」に集約されるが、どちらを取っても一筋縄ではいかない。AIスキルの習得を求められるITエンジニアもまた、目まぐるしく変化するAI分野の知識をどのように身に付けるか手探りの状態にある。
この事態を重く受け止めているのがNVIDIAだ。AI技術の発展を追い風に成長を続ける同社は、人材不足がAI普及のボトルネックになることを懸念。無料または少額で受講できるオンライン学習プログラムやAIスキルを証明する資格試験を用意して、ITエンジニアのスキルアップや企業の人材育成を後押ししている。
AIエンジニアを自社に迎え入れる“近道”はあるのか。AI時代に必要なスキルセットとは何か。NVIDIAに聞く。
NVIDIAは、AIエンジニアについて「ITとは違う多面的なスキルと実践的な知識が求められている」という見方を示す。AIモデルの学習や推論を実行するツールを扱う技能、データの収集や整備に関わるデータサイエンス分野の知識、AIをデータベースやアプリと連携させるワークフロー設計の能力、GPUに代表される「アクセラレーテッドコンピューティング」の制御技術。こうした、従来のITエンジニアには要求されなかったスキルが必要だ。
これらをマスターした人材を社内に抱えることで、「自社のAI活用レベルをワンランク上に引き上げる」「AIアプリを開発してビジネスを拡大させる」「AIエンジニアが顧客対応することで競合他社よりも優位に商談を進められる」などの効果が期待できる。
「AI活用の波が大きくなるにつれて、AIエンジニアの獲得競争が激化しています。しかし良い条件を提示して優秀な人材を採用できる企業は少ないのが現実です。優秀な学生を囲い込んだり他社から引き抜いたりできるのは、大手企業や知名度が高いスタートアップなど一部に限られます」(NVIDIA)
AIエンジニアの採用が難しい企業の中には、従業員の育成に切り替える動きが出てきている。人材獲得の目的を達成できるだけでなく、自社ビジネスを理解している従業員がAIエンジニアに転身することで企業のさらなる成長につながるのだ。
AIエンジニアの採用と育成にはそれぞれ特有の難しさがあるとNVIDIAは説明する。
ITエンジニアを採用する際は、面接やレファレンスチェックで選考することが多い。AIエンジニアの場合はコーディング試験が加わるが、それを評価するのが難しい。
「人事担当者と現場のエンジニアが試験用の『課題』を作らなければなりません。『このレベルのスキルを持つ人材が欲しい』というラインを押さえた課題を設定するには労力がかかります。採点に苦労するケースもあるようです」(NVIDIA)
AIエンジニアの育成は、「体系的な教育プログラムの用意」という壁に直面するケースが多い。一口に「AI」と言っても、その裏側には数学や統計学、Pythonを使ったプログラミングなど複数の分野にまたがる知識が含まれている。優れたAIアプリを開発するためには、自社のビジネスドメインに関する知識も必要だ。企業は、従業員がどの分野の専門家になってほしいのかを定義し、それに沿った教育プログラムを設けなければならない。
教育プログラムは、知識をインプットする座学と手を動かす演習を組み合わせたものが理想だ。NVIDIAは「AIの歴史や仕組みに詳しいだけの“クイズが得意な人”が求められているわけではない」と説く。自社や顧客の課題を理解して、AIを使った解決策を見いだし、それをプログラミングによって実現できる技術が必要だ。そのために、実践的な演習環境が不可欠だと同社は強調する。
「座学と演習」「体系的」という条件を満たす教育・学習プログラムを提供している企業は何社もある。そうしたサービスを導入する際は「特定のベンダーに依存せず、オープンな知識を身に付けられるものを選ぶとよい」とNVIDIAは助言する。
AIの業界では、オープンソースソフトウェア(OSS)の活用が主流だ。特定のツールやスキルに特化している人材は、どれほど優秀でもIT環境が変わった途端に価値を発揮できなくなるリスクをはらんでいる。「業界標準のOSSを使いこなし、転職先や配属先がどのようなIT環境でも活躍できるAIエンジニアが求められています」(NVIDIA)
AIエンジニア育成の課題を受けて、NVIDIAはAIスキルを学べるオンライン学習プログラムの拡充に注力している。無料または低価格で受講できる「NVIDIA Academy」「NVIDIA Deep Learning Institute」(DLI)を用意し、AI市場の活性化や企業のAI活用を後押ししている。
「AIを開発する人、使う人が増えればGPUの利用が広がる」というビジネス的な思惑があるが、だからこそ妥協のない学習プログラムに仕上がっている。NVIDIA Academyは、NVIDIA製品――特にインフラストラクチャのトレーニングに特化している。NVIDIA DLIは、徹底した実践主義とベンダーニュートラルな姿勢が大きなポイントだ。
「NVIDIAのGPUをベースにしていますが、ソフトウェアまでベンダーロックインするつもりはありません。OSSや業界スタンダードの技術を中心に学べるプログラムとしてNVIDIA DLIを設計しています。座学パートと演習パートがセットになっており、学んだその日から現場で役立つ知識と技術を身に付けられるように設計しています」(NVIDIA)
NVIDIA DLIはオンラインの自習コースを基本にしており、2025年10月1日時点で88件のコースがある。日本語に対応している無料コースには、2時間で学べる「生成AI解説」や8時間で習得できる「LLMによるRAGエージェントの構築」などがある。無料コースは、登録すれば誰でも受講可能だ。有料のものは1コース当たり30ドルや90ドルという価格設定で、個人で申し込める他、法人契約もできる。
NVIDIA DLIの各コースは、コーディングの演習課題を含んでいるものが大半を占める。演習に必要なドライバやライブラリをプリインストールしたAI環境がクラウドに用意されており、GPUインスタンスを1台起動するだけで演習環境が整う。高性能なGPUマシンが手元になくても、PCがあれば演習用のクラウドに接続して実践的なスキルを学べる。
米国ではNVIDIA DLIを利用する企業が増えており、ある大手航空機メーカーは自社で取り組んでいる教育プログラムやプロジェクトに即座に適用できると評価しているという。テーマや難易度に基づいて内容が体系化されていることに加え、最新のAIトレンドを押さえたコースが追加されるため即効性がある点が好評だとNVIDIAは説明する。
学習プログラムと併せてNVIDIAが提供しているのが、AIエンジニアのスキルを証明する資格試験「NVIDIA Certification」だ。AI時代に求められるスキルを有することを定量的に説明できる。
AI開発者向けの認定資格「NVIDIA-Certified Associate」の一つである「Generative AI LLMs」(NCA-GENL)は、約50問の選択問題から成るオンライン試験だ。受講料は125ドル。出題範囲は「機械学習の基礎」「データ前処理と特徴量エンジニアリング」「LLM用のPythonライブラリ」など多岐にわたるが、各ジャンルに対応するNVIDIA DLIのコースや学習ガイドが公開されているため迷わずに試験対策できるだろう。
「NVIDIA DLIで知識と技術を学び、NVIDIA Certificationで実力を試す。このサイクルを回すことで、現場で通用するスキルがあると示せます。既にスキルを持っているAIエンジニアは、NVIDIA DLIを受講しなくても試験だけ受けられます」(NVIDIA)
NCA-GENLの取得をゴールとするラーニングパス (Exam Blueprint) も充実している。例えば「Introduction to Transformer-Based Natural Language Processing」(Transformerベースの自然言語処理入門)という30ドルの自習コースは、生成AIの仕組みや自然言語処理の演習を6時間で修められる。こうした基礎から応用、学習から試験まで体系立てられた学習プログラムは珍しい。
NVIDIA DLIの学習コースを修了すれば完了証明書「Certificate of Completion」が、NVIDIA Certificationの試験に合格すると資格認定証「Certified Associate」「Certified Professional」が授与される。
これらの証明書や認定証は、「GitHub」に掲載したり「LinkedIn」のプロフィールにひも付けたりして自身の能力や価値を示せる。ファイルをダウンロードしてSNSやブログに載せることも可能だ。企業の採用担当者は、認定証を候補者選定の基準にできる。
「NVIDIAの認定資格は、SIerやITコンサルティング企業の技術力を対外的にアピールする用途にも使えます。プリセールスエンジニアやコンサルタントが認定資格を取得することで、AI業界標準のスキルを有していると伝えられるため、信頼を得やすくなるでしょう」(NVIDIA)
世界的な大手コンサルティングファームは、数千人の従業員にNVIDIA DLIを受講させている。従業員のスキルを顧客に説明するためであり、指定されたコースの完了証明書がないとプロジェクトに携われないケースもあるという。
「エンジニアは自身のスキルセットをアピールするツールとして、採用担当者は候補者のスキルレベルを見極める基準として、事業部門のリーダーは自社の技術力を発信する手段として、NVIDIA DLIとNVIDIA Certificationをご活用ください」(NVIDIA)
AI時代のビジネスにおいて、AIエンジニアは欠かせない存在だ。AIスキルを体系的に学び、証明できるNVIDIAのプログラムは人材育成を推し進める突破口になるはずだ。無料または低価格から始めたい企業は、NVIDIAに連絡してみてはいかがだろうか。
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