官公庁のAI活用丸分かり “失敗しないAI導入”のために知りたい事例と導入ステップ日本マイクロソフトの公共セクター担当に聞く

PR/ITmedia
» 2025年12月24日 10時00分 公開
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 民間企業に広がる生成AI活用の波は、官公庁にも押し寄せている。千代田区役所※1 は議事録作成や調査などに生成AIを利用し、ユーザー全体で月間約300時間分の業務効率化に成功した。東京都府中市役所※2 は市民向けの生成AIチャットbotを内製してサービス向上に努めている。

 こうした試みは首都圏にとどまらず、全国に広がり始めている。しかし、官公庁のIT担当者の多くは、「予算が付かない」「どの業務に適用できるか分からない」「情報漏えいのリスクがあって踏み出せない」「前例がないから難しい」といった課題を前に頭を抱えているのが実情だ。

 「官公庁こそ、生成AIの恩恵を強く享受できる場所です。先進事例を参考にして生成AIの導入・活用に取り組めば業務変革を確かに実現できます」――こう語るのは、日本マイクロソフトで自治体など公共セクター向けビジネスを担当する神澤祐介氏だ。同氏へのインタビューを通じて「AI導入のロードマップ」「AI活用のユースケース」を解き明かす。

日本マイクロソフトの神澤祐介氏(Windows & デバイス事業本部 Surface 法人営業本部 Surface AI スペシャリスト) 日本マイクロソフトの神澤祐介氏(Windows & デバイス事業本部 Surface 法人営業本部 Surface AI スペシャリスト)

“アナログ業務”に追われる職員をAIはどうサポートするか

 神澤氏の主張の背景には、事務作業に追われている行政職員の姿があるという。ペーパーレス化が進展しているとはいえ紙の山がまだまだ多く、情報の検索性が低い。窓口業務においては、紙かデジタルかを問わず同じフォーマットの文書を繰り返し扱っており定型業務に時間を割いている。

 「議会対応は特に大変です。議員の質問に対する答弁書を作成するために、類似事例や関連法規を調べる過程で多くの資料を参照しなければなりません。作成した答弁書の添削や承認は、紙で回覧して赤字が入って戻ってくるといったアナログなプロセスも残っています」

 ここにAIを導入すれば大幅な効率化を見込める。生成AIが登場したことで、文書のデジタル化や非構造化データの取り扱いが容易になった。条例や規定集、議事録などをデジタル化してAIチャットbotやAIエージェントで検索できるようにすれば調査時間を短縮可能だ。市民や企業向けサービスとして公開すれば「申請に必要な情報は何か」「どのような補助金があるのか」といった質問にAIで一次対応できる。文書の下書きを作る、上司に添削を依頼する前にチェックをする、などの使い方も可能だ。

 AIによって「探す時間」「作る時間」を短縮できれば、職員は「住民サービスの向上」「地域課題の解決」といったコア業務に時間を使えるようになる。

生成AI活用の事例 千代田区は月間約300時間の削減に成功

 生成AI活用の事例として、千代田区役所の取り組み※1 が挙げられる。生成AIツール「Microsoft 365 Copilot」の効果を検証したところ、利用した職員全体で月平均約300時間の業務時間を削減できた。生成AI利用の効果について担当者は「限られた時間で幅広い資料を調べられる」と評価する。

 県を挙げて生成AI活用に取り組んでいるのが山口県庁※3 だ。県内19市町と連携してAI活用ワークショップを実施。同県庁はMicrosoft 365 Copilotを導入しており、担当者は「国から送られてくる100ページ以上あるスライドを要約してもらうなど、時間短縮に有効」だとしている。

 東京都の府中市役所※2 は、Microsoft 365 CopilotのAIをカスタマイズできる「Copilot Studio」を使って、市民向けの生成AIチャットbot「AIサイト内検索ボット」を内製した。市のWebサイトを情報源として正答率を90%に高めた上で公開し、「市民に伝わる情報発信」を実現した。

AI導入を阻む行政ならではの壁

 生成AI活用の成果が出ている一方で、導入が進まない背景には3つの障壁がある。

 1つ目は「誤情報(ハルシネーション)の懸念」だ。神澤氏は「『AIがうそをついたらどうするのか』という不安が、導入の大きなブレーキになっています」と指摘する。AIに完全性を求めるのではなく、「正解」にたどり着くための「近道」「ヒント」を得るものだという理解を広げることが大切だ。

 2つ目は「ROI(投資対効果)の不明確さ」だ。生成AIの利用コストは決して安くない。どれだけの効果が出るのか予測して財政担当を説得することが困難なため、導入の意思決定が難しい。「先行する自治体の事例を参考にする」「業務時間に換算して試算する」といった対応が効果的だと神澤氏は助言する。

 3つ目が「人材不足」だ。AIを使いこなし、現場に広める「旗振り役」が足りていない。IT専門職を確保することが困難な自治体もある中で、職員が自走できる使いやすい生成AIサービスが必要だ。

 かつてはクラウド利用に高いハードルがあったが、テレワークやガバメントクラウドが推進される中で制限が緩和されている。「公務員は数年で異動するため、任期中に新しいことに挑戦しにくい」という指摘があるが、生成AIの活用には前向きなIT担当者が多く、先行する自治体に追随しようとする動きが急増していると神澤氏は話す。

スムーズなAI導入につながる3ステップ

 業務利用に適した生成AIとしてMicrosoftのAIサービスが選ばれることが多い。Office製品と相性が良い上に、サブスクリプション型の「Microsoft 365」にアドオンすれば生成AI機能を利用できる手軽さがある。官公庁の生成AI活用を支援している日本マイクロソフトは、これまでの事例から「3つの導入ステップ」を導き出した。

ステップ1:生成AIの利便性を実感する

 AIに慣れるために、無料で使えるサービスを使って「Webにある情報の検索」「文書作成の支援」「アイデア出し」といった用途を職員に試してもらう。機密情報を扱わない範囲での利用が原則だ。ここで利便性を理解してもらうと同時にリテラシーを底上げする。

 仕事用のMicrosoft アカウントでサインインすれば、無料かつエンタープライズデータ保護が適用された対話型AIが使える「Copilot Chat」や、「Windows」に搭載されている無料のAIアシスタント「Microsoft Copilot」などがある。導入ハードルが低いため、「お試し」として多くの自治体に導入されていると神澤氏は説明する。

photo 無料で使えるMicrosoft Copilotの利用イメージ《クリックで拡大》

ステップ2:庁内データを使って日常業務を効率化する

 生成AI活用の本丸は、庁内データを利用するフェーズにある。組織内に散らばっているデータを集約し、それらを参照して新たなコンテンツを生成したり検索したりすることで業務変革の足掛かりが得られる。

 ここで中心になるのがMicrosoft 365 Copilotだ。「入力したデータをAI学習に利用しない」など高いセキュリティ基準で守られており、機微なデータを扱うことが多い官公庁からの引き合いが多いと神澤氏は言う。

 Microsoft 365 Copilotを使えば、「Microsoft Word」で下書きを作る、「Microsoft SharePoint」に保存した文書をAIに参照させる、「Microsoft Outlook」の受信ボックスの内容を要約する、などが可能だ。過去の入札仕様書や会議資料をAIに読み込ませ、「この仕様書をベースに、新しい入札要領のドラフトを作って」と指示するとフォーマットに沿った文書案が出力される。

 神澤氏は、Microsoft 365 Copilotの中でも「Microsoft Teams」を使ったWeb会議のAI要約が便利だと言う。決定事項やタスクを素早く確認でき、『Aさんの発言を抜き出して』といった指示にも応えるのだ。

ステップ3:AIエージェントやオンデバイスAIを利用する

 高度な生成AI活用として期待が集まるのがAIエージェントだ。生成AIに対して細かく指示を出すのではなく、AIエージェントがタスクを自律的にこなすことでさらなる業務効率化が見込める。Microsoft 365 Copilotのライセンスがあれば「Copilotエージェント」を利用可能だ。特定の文書フォーマットに対応したAIエージェントを構築し、職員が必要な情報を箇条書きするだけで文書が完成するといった運用ができる。

 「オンデバイスAI」も注目だ。生成AIの処理は大規模な計算が必要なため、クラウドで実行するケースが大半だった。しかし、技術革新によってビジネスPCだけで処理をするオンデバイスAIが実現。AI処理に特化したプロセッサ「NPU」(Neural Processing Unit)を搭載するPCクラス「Copilot+ PC」の代表格である「Microsoft Surface」など、AI PCが普及し始めている。

 「オンデバイスAIは、デバイス内部でAI処理が完結するためデータを外部に送信しません。官公庁にとってセキュリティ面で大きなメリットです。クラウドに接続しないため、ネットワーク環境が弱い場所でも利用できます。土木課や公園課の職員が外出先でAIを使えます」

 Copilot+ PCのオンデバイスAI機能に「ライブキャプション」がある。動画やWeb会議の音声を認識してリアルタイムに翻訳して字幕を表示する機能で、40カ国語以上に対応。自治体窓口にCopilot+ PCを置けば、外国人とのコミュニケーションが円滑になるだろう。会話内容を外部に送信しないため、病歴など配慮が必要な情報や個人情報が話題に上っても問題ない。

「私の業務でもAIが役に立ちそう」という空気を広げるには

 生成AIの導入ステップを歩む上で、神澤氏は次のようなアドバイスをする。

 「『なぜAIを入れるのか』『どの業務にAIを適用するか』がぶれると失敗します。業務効率化のためなのか、市民サービス向上のためなのか、目的を明確にしてから十数人の小規模な単位でPoC(概念実証)を行い、小さな成功を積み重ねてください」

 神澤氏が支援した例では、「管理職15人」「若手と管理職それぞれ5人」など目的に合わせたチームを作ってMicrosoft 365 Copilotを使ってもらったという。スモールスタートして成功体験を増やすと「あの人たちは良いツールを使っていてうらやましい」「私の業務でもAIが役に立ちそう」という空気が生まれる。これを庁内に広げると、抵抗勢力が推進勢力に変わっていく。

 神澤氏は「生成AIによって、日本の公共サービスの在り方は確実に変わるはずです」と力を込める。日本マイクロソフトは、事例記事やセミナーなどで官公庁向けの生成AI活用に関する情報を発信している。それらを、生成AI活用の道筋を立てる際に役立てるのがいいだろう。

※1 千代田区役所の事例はこちら(外部サイト)
※2 府中市役所の事例はこちら(外部サイト)
※3 山口県庁の事例はこちら(外部サイト)

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