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IP方式による地デジ再送信の「論点」西正(1/2 ページ)

» 2005年09月15日 20時24分 公開
[西正,ITmedia]

未解決なままの著作権問題

 IP方式による地上波デジタル放送(以下、地デジ)の再送信が正式に検討されることになったが、その議論の進め方に対してCATV事業者が猛反発するなど、ここに来て風雲急を告げているようだ。だが、それ以前の問題として、最大の懸案事項である著作権問題などが一向に解決していないことも忘れてはならない。

 アナログ停波後の条件不利地域への対応という点では、衛星を使う方が現実的だ。降雨減衰への対策が施されれば、衛星を使うことの問題点は少ないし、衛星であればRFで送られるため、著作権問題も発生してこないからだ。

 そうした点から、IP方式の再送信は都市部の難視聴対策としてスタートすることになるだろう。ただ、IP方式の再送信について語られる際には、必ず「著作権問題が解決されれば」という巻頭詞が付されるのが現実だ。関係者はまずその点を冷静に確認しておくべきだろう。

 IP方式による同時再送信について政府は、これまでのCATVによる同時再送信と同じなので、今のところ「新たな権利は何も発生しない」と著作権団体に説明しているようだ。だがそれで了解が得られる見込みはほとんどない。世界的に見ても、IP送信に対する著作権者の意識は閉ざされたままであり、MicrosoftのIPTV(Microsoft TV IPTV Edition)が世界標準になると言われている本家本元の米国でも、ハリウッドはIP送信を了解するかどうか作品によってスタンスを使い分けている。

 IP方式による地デジの再送信が行われることになるのは時間の問題とは思うが、その「時間」が長くなるか短くなるかを決めるのは、技術的な問題もさることながら、著作権問題の解決に行き着くのではないだろうか。

 よく言われることだが、問題の多くは、過去に作られた作品についての権利処理が困難なところにある。テレビ放送はフィルム撮りで始まったが、当時の映像は使い捨てのような状況にあり、作品自体が残されていないことが多い。その後、ビデオが使われるようになり、保存ができるようになったが、最初は作品すら残されなかったことを考えれば、過去の作品の権利者情報が管理されていないことについて、今になって放送局の姿勢を問題視しても始まらない。

 放送の歴史の中で、マルチユースということが意識され始めたのはそれほど大昔でもない。さらには新たに生まれてくる技術による使われ方を過去の時点で予測できているはずもない。だから、常に改めて1つ1つ対応していかざるを得ないのである。

 インターネットが一般的に利用されるようになってから、まだ日は浅い。技術の進歩も普及の速さも想像を超えるものであり、著作権処理のような問題まで、それと同じスピードで済ませようとするのは無理に決まっているのだ。

 地上波では過去の作品が流される機会も多いし、視聴者もそれを望んでいる。現段階でIP方式による再送信に踏み切るとなると、過去の作品の中には流せないものも出てくることになるだろう。CATVでの再送信を視聴している世帯では見られて、IP方式での再送信を視聴している世帯では見られないなどということを視聴者が受け入れるとも思えないから、まずは著作権処理という骨の折れる作業をコツコツとやっていくしかないだろう。

 著作権関連のデータベースを過去に遡って構築していくことは非常に大変な作業になる。このことは改めてよく認識しておくべきだ。

 IP方式による地デジの再送信の可否は、CATV事業者と大手通信事業者の競合の問題と捉える以前、まずは肝心のコンテンツが流せるかどうかという原点に立ち返って検討すべきなのだ。その点をあいまいにしたまま拙速にスタートさせると、いずれ優良な作品が消えていくことにもつながりかねないのである。

 

プラットフォームの問題

 地デジのIP再送信を始めるに当たっては、放送局が主体となるプラットフォームが必要になるという議論もある。

 過去にも規制緩和小委員会などで、放送局には制作部門のみを残し、送信部門は通信事業者に任せるべきではないかという「水平分離」の提案がなされ、放送局側から大反発を受けたことがあった。地上波各局はエンターテインメントの提供媒体にとどまるわけではなく、ニュース・報道を通じたジャーナリズムを形成する言論機関でもある。

 である以上は、出口を通信事業者に握られる形になる「水平分離」に賛同できるはずなどない。通信事業者からすれば、あくまでも再送信同意を出しているのは放送局なのだから、自分たちが出口を握る形になったとしても、そこから発せられる情報を遮断することなどあり得ないという言い分になる。しかし“マストキャリー”が制度化されていない現状では、この議論は平行線をたどり続けることになるだろう。

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