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日本独自の放送規格の必要性西正(1/2 ページ)

» 2005年11月04日 12時28分 公開
[西正,ITmedia]

同一性の保持についての考え方

 地上波局が再送信同意を与えるに際しては、同一性の保持が求められることが多い。何をもって同一性と呼ぶかにもよるが、同一性という概念自体は放送規格そのものではないが、大いに関連してくるテーマではある。

 英国のBSkyBが2006年からHDTVの放送を始めようとしており、そのために彼らが開発をした送信側の設備であるとか、受信機であるとか、CASシステムであるとかを、そのまま日本のCS放送の技術規格として導入すれば、コストパフォーマンスも良くなると考えられがちである。

 CSデジタル放送に限っての話であれば、何の問題もないのだろうが、地デジの再送信手段にと考えると、地上波側からは不十分であると言われてしまう。

 もともとは欧州の規格なので、日本の非常にきめの細かいデータ放送が送れるとか、マルチチャンネル伝送ができるとか、降雨減衰を低減させるための階層伝送技術が使えるといった機能は全く付いていないからだ。付けようと思えば技術的には付けられるのだが、日本のやり方に合わせてアジャストしていくと加工コストがかかってしまう。しかし、そうした加工を施してもらえない限り、その方式では同一性が保持されないので、地上波の再送信とは言えないというのが地上波側の見解なのである。

 ただし、同一性の定義については神学論争的な面も見られる。放送局のアウトプットの信号であるトランスポートストリーム(TS)が、そのままの形で家庭のテレビまで行かないことには、同一性が保持されているとは言えないという考え方もあるからだ。

 ところが、今回、検討されているIP方式による再送信では、NTTが総務省に提案している規格上、この方法ではネットワークの負荷が重くなってしまう。だからTSを1回ばらして、MPEG2ではなくH.264で再圧縮をしてテレビまで持って行き、テレビに映し出した時には全く同じに見えるようにするやり方を取ろうとしている。

 そうであれば、CS放送のDVB-S2というヨーロッパ規格を使っても、地上波のデータ放送を送り、少なくとも見た目とか操作感は同じにできる可能性がある。テレビに映し出した時に、見た目も全く同じだし操作性も同じだが、実際には途中で一回ばらして、違う方式で送っていることになるのだ。もしこれをIP方式で認めれば、CSについても、それを同一性の保持と言わざるを得なくなることになる。

 そもそも過去には、ケーブルテレビのリマックス方式での伝送に対して、再送信同意を出した経緯がある。あれは言ってみれば全部ばらして端末側で再構成するという技術である。あれを認めたのだから、IP方式なりCSでTSをばらしても、ちゃんと出口の所で見えていれば、文句を言える筋合いはないという主張も十分に成り立つ話である。

 アナログの放送の時には、極論すれば映像と音声しかないようなものだったので、映像と音声の同一性という概念は分かりやすかった。だが、デジタルになって、データ放送、字幕情報、EPG、CAS情報と送信メニューも増えてしまったことから、それらを束ねて全部送る必要があるのか、ばらして送ってもそれぞれの機能が生かされていれば同一性と考えるのかということが難しい話になってしまったのである。

 ただし、現行の制度では同一性の保持が守られることが、再送信同意の条件となっている。いつまでも神学論争にしておくわけにはいかない。

BMLとB-CAS

 日本独自の放送規格の最たるものが、BMLとB-CASであるという言われ方をすることが多い。

 BMLの使い勝手については、あまり良い評価は聞かないが、そもそも放送の規格というのは基本的にドメスティックなものなのである。すなわち、その国の放送局がその国の視聴者に対して、どのようなサービスを提供するかという視点からベストなチョイスがなされることになる。

 米国のように周波数に非常に余裕があるとか、ヨーロッパのように移動体をあとから追加して、それは別周波数でやるとか、色々な考え方があってそれぞれの国の放送方式というものが決まってきている。

 マルチメディアの記述言語として、日本の場合はBMLを使っている。ヨーロッパの場合は別の言語を使っているとか、それぞれの方式があるのだが、日本の方式が日本ローカルでよそとの互換性がないからいけないということは、一概には言えないように思う。確かに、世界統一規格ができれば、作る側からすれば非常に低コストの物が作れるのかもしれない。だが、それで日本の視聴者に対するサービスが、今のサービスより良くなる保証はどこにもない。

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