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情報過多が作り出す「Level1飛空艇」症候群小寺信良(1/3 ページ)

» 2006年04月17日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 新年度を迎え、各社とも新入社員を迎える時期となった。会社によっては研修期間があり、実際に現場の部署へ配属されるのはもう少し後かもしれないが、社会人にとっては「新しい新人は(当たり前か)使えるのか?」という期待と不安と面倒くささに胸膨らむシーズンなのである。

 実は筆者も毎年この時期になると、NHK研修センターにてNHKスタッフの研修を行なう、臨時の先生となる。NHKスタッフとはNHKの職員ではないが、NHK各地方局で現地採用する、番組制作のスタッフである。

 採用される職種は多岐に渡る。ライトマン、カメラマン、ディレクター、編集者、アナウンサー、リポーター等々。それぞれのコースに応じて、各職種のOBや現役が指導に当たる。筆者はこのうち、編集コースを任されている。

 NHKスタッフとは、雇用形態としてはアルバイトと変わらない。3年で契約満了となり、同じ職場には再登録できないという、厳しい条件が付いている。だが応募してくる人には、大学新卒者もいれば、いったん別の仕事に就いていた人なども多い。

 地元での仕事の中では、例えアルバイトであっても最も面白い職種と言えるかもしれない。また誰でも即現場に入って映像制作が学べると言うことで、就職浪人した人や進むべき道をやり直したい人のため、人生の敗者復活戦を支援する役割も果たしている。

全滅からしか学べない仕事

 毎年3月の研修にやってくるスタッフは、すでに1年目2年目の経験者2割、残りは初心者という構成である。経験者は多少のことはわかるようになっているが、我々本物のプロから見れば、まだシロウトと大差ない。

 だが本人達に取ってみれば、放送機材が扱えるかどうかだけでも、大きな開きがあると思っている。だがVTRにしても編集機にしても、所詮はツールにしか過ぎない。もちろん初心者には使い方をある程度指導するが、機材の使い方など実戦でいじって自分で困れば、それなりに使えるようになるものだ。それを使って「何をどう作るか」を教えるのが、講師の役目である。

 ビデオ編集という職種は、テレビ関係の仕事の中では、おそらく照明に次いで人に教えにくい仕事ではないかと思う。基本はほんの少ししかなく、あとはだいたいケースバイケースなのである。天才や職人と呼ばれる人が数多く存在し、その人達が作るものは、大抵基本から全然外れている。でも、イイのだ。良いものを見て、何が良いのかを解析して、自分なりのセオリーを組み立てていくしか、成長の道はない。

 こういう職種の場合、あまりにもレベルが高すぎる人は、初心者を教えられない。教えられるほうも、何を言っているのか理解できない。講師はまあ、ある程度レベルが近い方が教えることがあるものである。

 例えばFINAL FANTASYシリーズで、Level 1のキャラにLevel 100のキャラが付いてきても、そりゃ確かに経験値は貰えるかもしれないが、戦闘が一瞬で終わってしまって何が起こったのか理解できまい。きっとあのぐらいのレベルになればわかるのかも、ぐらいのことがボンヤリわかる程度である。

 映像業界では、結構Level100にくっついてたレベル不明の人間が幅をきかせているケースが散見される。元クロサワの助監だったとか、そういうフレコミの人間は要注意だ。Level100のキャラとパーティを組んでいたキャラが、Level100とは限らないのである。

 筆者が編集の講師としてわざわざ外部から呼ばれるのも、筆者のLevelが50ぐらいだから丁度いいというところはあるだろう。なにせNHKの編集OBといったら、筆者が教わらなければおかしいぐらい、あまりにも巨匠すぎるのである。NHKスタッフはこれから毎日、「シルクロード」を編集するわけではないのだ。

 筆者の講義は、大半が実習である。そして、敢えて失敗させ、ほかの人と比較し、悪いところを発見させる。編集とは、こういう失敗の体験を蓄積していくという、「全滅覚悟ダンジョン探索型」でしか教えることができない。

 そもそも今どきの若手は、全滅、玉砕の経験がない。筆者の講義はある意味非常に自尊心を傷つけられて辛いことだろう。だがここでくじけるようであれば、どのみち3年のアルバイトで終わるだけである。

 チャンスを生かすも殺すも自分次第で、誰も助けてくれないということを、覚えて貰わなければならない。

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