GeForce 6800シリーズに秘められたNVIDIAの戦略とは(3/3 ページ)
発表されて1カ月半が過ぎ、最近になってやっと製品が店頭に現れ始めたGeForce 6800シリーズ。今回は、前回の連載でちょっと匂わせておいたこのGeForce6800シリーズにまつわる「テクニカルな謎」に迫ってみたい。
「Shader 2.0」対「Shader 3.0」〜この勝負の行方は?
昨年同様、2004年のGPU対決もNVIDIA対ATIという図式で進行しているものの、ちょっと違うところがある。ATIのRADEON X800ではプログラマブルシェーダ2.0仕様(以下、Shader x.xと表記する)に留まる決断をしたのに対し、NVIDIAはShader 3.0仕様に進むことを選んだため、「Shader 2.0対Shader 3.0」の図式としてもみることができるのだ。
同じような状況は、過去の「Shader 1.x」時代にもあった。NVIDIAはGeForce3シリーズを「GeForce3=Direct X 8対応」として発表し、最初のプログラマブルシェーダ仕様である「Shader 1.1」の完全対応をアピールしている(ちなみにShader 1.0は欠番)。この後、ATIはプログラマブル「ピクセル」シェーダ1.1仕様の制約を大幅に緩和した「1.4」仕様をサポートしたRADEON 8500シリーズを発表する。その後、NVIDIAは「RADEON 8500対抗」として投入したGeForce4 Tiシリーズでプログラマブルピクセルシェーダの仕様拡張を行うも「1.1」仕様のマイナーチェンジ版ともいえる「1.3」仕様を打ち出すに留まった。
そう、このときNVIDIAは、よりプログラマビリティの高いはずの「1.4」仕様に対応せず、実質的には「1.1」仕様に留まったのだ。歴史的に振り返れば、これは当時やっと認知度が高まってきたプログラマブルシェーダ1.1仕様に踏みとどまったことで、リアルタイム3Dグラフックスのトレンドをプログラマブルシェーダベースへ移行させた意義があったとされる。実際、アーキテクチャ的な技術革新に乏しかったGeForce4 Tiシリーズだが、結果的にはRADEON 8500シリーズを凌ぐロングセラーを記録した。
今世代のプログラマブルシェーダ技術の標準ともなっているプログラマブルシェーダ2.0仕様は、かつてATIがRADEON 9700シリーズで打ち出したものだ。RADEON 9700を「1.1」仕様当時のGeForce 3と見れば、あえて現世代に踏みとどまったATI RADEON X800はGeForce4 Tiと見れなくもない。
ATIとNVIDIA、立場は逆転してはいるものの、今の状況はこの時と似ているとはいえないか。この議論についてもタマシ氏に聞いてみた。
3DゲームエンジンはやっとShader 2.0仕様への移行が始まった。画面はShader 2.0仕様をベースに開発が進んでいる「FEAR」(Vivendi Universal Games)。画面はもちろんリアルタイムレンダリングによるもの
タマシ氏 見方によってはそういえるでしょう。しかし、あのときと違うのは、今回、2.0仕様と3.0仕様といったように、メジャーバージョンの違いがあるのです。「Shader 2.0」対「Shader 3.0」のどちらがいいか、について議論するまでもないと思います。3.0は2.0を包括した上位なのですから。
──ATIは、RADEON X800シリーズの発表において「今はシェーダ仕様の標準となりつつあるプログラマブルシェーダ2.0仕様を成熟させ、これを高速に動作させることに意味がある」といっています。
タマシ氏 過去のアーキテクチャをマイナーチェンジさせたハイパフォーマンス版を、我々は「ウルトラアーキテクチャ」と呼んだりしていますが、そう、あなたの言うとおり、我々は過去にウルトラアーキテクチャの方策でGeForce4 Tiを投入しました。
──その世代のアプリケーションをハイパフォーマンスで動作させる目的のものですね。しかし今回は違う。それはなぜでしょうか。
タマシ氏 現行のShader 2.0ベースで作り込まれたさまざまなアプリケーションを使ったベンチマークテストの結果を一通り見てみましたが、GeForce 6800 UltraとRADEON X800XTのスコアはそれほど差がないのですよ。「なんだ、差がないのか」とがっかりする人もいるでしょうが、よく考えてみると、これはShader 2.0仕様のアプリケーションを動かしたときのパフォーマンスが、ATIのウルトラアーキテクチャ版であるRADEON X800と同等と言うことなのですよ。GeForce 6800 UltraはShader 3.0仕様にアーキテクチャを一新させているのにもかかわらず。
──つまり、「同じパフォーマンスが出るならばShader 3.0仕様に対応している分、GeForce 6800シリーズがお得だよ」と言いたいわけですね。
タマシ氏 そうです。開発者の立場でもそうでしょう? 同じパフォーマンスが出るならば、新しいシェーダ3.0仕様が試せるだけに、GeForce 6800シリーズに魅力を感じるはずです。
──同クラスの製品価格がまったく同じ場合はそういえるかもしれませんね。ただ、RADEON X800シリーズはGeForce 6800シリーズよりもダイサイズが小さいですから、ATIは価格で勝負してくる可能性もありそうです。
タマシ氏 彼らがこの先ずっとShader 2.0に留まると思いますか? それは絶対あり得ませんよね。彼らも次世代シェーダ仕様のGPUを開発中であるのは確実です。たまたま、今回は我々が最初に次世代シェーダ仕様アーキテクチャのGPUを発表できた。結局はそういうことなのだと思います。
──私はRADEON X800シリーズに弱点があるとすれば「シェーダ3.0仕様に対応していない」ということよりも、浮動小数点実数(FP)バッファのブレンディング、FPテクスチャフィルタリングに対応していないことだと思っています。HDRレンダリングにおいて、これらのフィーチャーは非常に重要だと思うのですが、これに対応しているGeForce 6800シリーズはその点で優位かと思います。
タマシ氏 開発者によって言うことは違いますが、GeForce 6800シリーズの機能のうち、そっちを高く評価する人も確かにいますね。次世代の3Dゲームエンジンは、FPバッファの透過的な活用とシェーダ3.0仕様の活用が組み合わされたものになると我々は予測しています。
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