三波共用テレビ、「アンテナ問題」の難しさ(3/3 ページ)
地上波デジタル、BSデジタル、110度CSの三波に対応したデジタルテレビの売れ行きが好調だ。本来これは110度CS放送の普及にとって追い風になるはずだが、現実にはそうなっていない。「アンテナ問題」がネックになっており、その解消が不可欠になっているからだ。
新しいメディア推進にはNHKの利用が欠かせない?
後は、110度CS放送にNHKが参画していく道を開くことも、今さらながらではあるが、十分に検討していく価値があるだろう。
NHKは110度CS放送への参画を希望していた。しかし、何かあるたびに唱えられる「肥大化論」を理由に、新聞協会や民放側が反対、阻止してしまった経緯がある。今でも、別テーマで「NHK肥大化論」が展開されていることからすると、110度CS放送への参画が簡単に認められるとは思えないし、NHKにとっても110度CSが今のような姿になった段階で参画を認められても釈然としないに違いない。
とはいえ、新たなメディアが登場してきた際には、マーケットができるまでの間、公共放送たるNHKに先導役を任せるのが早道であると筆者は考える。おそらくNHKが参画していたら、今のアンテナ問題は、かなり違った様相になっていたことであろうし、既に着々と解決が進んでいた可能性も高い。そうした牽引力は、先に述べたBSアナログ放送での実績を見ても明らかである。
「後悔先に立たず」とも言える110度CS放送の苦労を今後も繰り返していくことになれば、サービスを提供する事業者と、視聴機会を逸したままの視聴者のいずれにも不幸なことにしかならない。このことは銘記されてしかるべきだろう。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
関連記事
- 「NHKと民放の関係」を再考する
わが国のテレビ放送は、公共放送であるNHKと商業放送である民放各社とが競争・補完し合うという海外にも例のない二元体制によって成り立ってきた。だが、最近では新規事業に乗り出そうとするNHKを民放が「NHKの肥大化」という形でけん制する構図ばかりが目に付く。バランスを欠きかけている両者の関係について再考してみたい。 - 変化し続けるスカパー!、その「将来性」は?
スカパー!は着々と業態を変えつつある。そのため、同社の有料加入者数の上限を予測するだけでは、同社の将来性や成長性を予測できなくなっている。では、今、スカパー!をどう見ればよいのだろうか。 - 110度CS放送――HD化の意味を取り違えていないだろうか?
110度CS放送のHD化の必要性が指摘されているが、コスト増となる割には視聴者が増えないため、事業者などからは「時期を遅らせたい」という声をよく耳にする。だが、そうした消極的な声の出るのは、110度CS放送HD化の捉え方について、ある種の混乱があるせいではないだろうか。 - WOWOWデジタルプラスが狙うシナジーの読み方
WOWOWが110度CS放送のプラットフォーム事業に参入した。BSデジタル放送と110度CS放送事業をどのようにシンクロさせていくのかが注目される。シナジーは生み出せるのであろうか。 - 西正氏のその他のコラム
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.