2004年、カンブリア紀のような進化の爆発が起きた:ネットベンチャー3.0【第4回】(1/3 ページ)
佐々木俊尚氏が日本のベンチャー企業が実践するWeb2.0ビジネス最前線を描く連載企画。ゆっくりとスタートした、ユーザーの質問にユーザーが“教えて”“答える”掲示板システムは、なぜ2004年に急速な成長を迎えることができたのか。
2002年夏。私は当時アスキーという会社に勤めていて、ASCII24というWeb媒体に記事を書いていた。90年代末に熱狂的に盛り上がったインターネットバブルはあっという間に消滅し、大量に流れ込んでいたリスクマネーは引き上げられてしまって、景気の悪い話ばかりがネット業界を覆っていたころである。「なんか面白い話はないですかね?」「資金がなくてね……」といったネガティブな話題ばかりで、ネットビジネスはもうこのまま沈み込んでいくのではないかと思われたほどだった。
『世界知識遺産』
そんな時に、知人から「元気なネットベンチャーがある」と聞き、その知人の紹介でオーケイウェブ(現オウケイウェイヴ)という会社に取材に行った。兼元謙任(かねもと・かねとう)という変わった名前の社長はキャラクターも一風変わっていて、坊主頭を振り回しながら、開口一番私にこう言ったのである。
「ネットの世界では、専門家の知識よりも素人の経験知のほうが信頼されることがある。そういう知を介在させれば、国境や人種の壁を超えたところで話が通じるんじゃないですか。つまり地球規模の知識ベースがここに誕生しようとしているのではないかと。それを僕はね、『世界知識資産』って呼んでるんですよ」
そして「まあまわりからは『おまえ、世界とか言ってるけど日本語サービスだけやん』って罵倒されるんですが、まあそこはおいおいやらせていただきますということで」と、カラカラと笑ったのだった。
「世界知識資産」という言葉に、私は思わずのけぞった。ネットの業界には大げさなことをいう経営者はたくさんいるが、地球規模のそんな話をする人は当時はあまりいなかったからである。いまだから打ち明けるが、「誇大妄想?」と思ったりもした。
ところがあれから4年が経ってみると、兼元社長の言う「世界知識資産」というような意味の言葉は、ごく当たり前にネット業界で使われるようになっている。いわずと知れた、Web2.0の「集合知」だ。人類の英知の結集といった言葉遣いもあるが、こうした用語はつい数年前だったらあまりに大げさと思われ、まともに取り上げる人などほとんどいなかったのである。今さらながら、時代の移り変わりは凄いと思わざるを得ない。当時はだれもインターネットが人間の生き方や社会を変えるなんてまじめには信じていなかったのだが、Web2.0という概念の登場とともに、それがごく当たり前に信じられるようになってしまったのである。
この時の取材は、『掲示板荒らしに対処するのは“まごころ”で』という記事になった。この中で、私はオーケイウェブをこう説明している。
<“教えて”“答える”の頭文字から名付けられたインターネットの掲示板、OKWeb。オーケイウェブが運営するこのコミュニティーの規模は、月間1500万ページビュー、月間書き込み数8万件、会員数10万人。パソコンから学問、ビジネス、趣味、日常生活まで数百のジャンルに分かれ、さまざまな質問とそれに対する回答を軸にし、独特の掲示板システムを作り上げている>
質問回答サイト「OKWeb」はその後、「OKWave」と名前を変え、現在は登録者数54万人、月間利用者数500万人、月間1億ページビュー、そしてQ&A数は900万を数える巨大な「集合知」サイトへと成長している。
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