Second Lifeに3度目の正直をかける企業、従来型メディア、代理店:金融・経済コラム
今やネットマーケティングの重要キーワードとなった「Second Life」ですが、日本語版は未だありません。にもかかわらず、さまざまな企業、従来型メディア、広告代理店からはSecond Lifeがらみのリリースはひっきりなしに流れてきます。これはいったいなぜなのでしょうか。
Second Lifeに関して、日本語サービスは始まっておらず、英語サービスでも日本人ユーザーはさほど多くないのに、次から次へと日本企業がSecond Lifeでオフィス開設や出店というプレスリリースを出しまくるのは滑稽であり、一種のバブル状態になっているという指摘が様々な方面からされてきました。
今回は、なぜ企業はSecond Lifeに取り組もうとするのかを、過去数年間のインターネットサービスに対する彼らの反応と対応からヒントを得てみます。
SNSを見通せなかった
Web2.0の代表的な存在としてはSNSとブログがあります。SNSに関しては2003年にアメリカで、そして日本では2004年3月から開始されましたが、当初は企業も新聞・雑誌・テレビ・ラジオという従来型メディアもこのSNSに対しては無反応、そして懐疑的でした。そもそも知らないという人達が多く、何らかのきっかけで知ったとしても「出会い系サービスじゃないの?」という一言で片付けられてしまい、むしろ怪しいサービスとして聞く耳も持たないという状況でした。
私自身も、2004年3月にSNSサービスを立ち上げた経験がありますので、当時の一般企業、そしてメディア関係者からの冷徹なまでの無反応ぶりと軽蔑の眼差しはよく覚えています。
しかし、今ではすっかりSNSは定着しました。mixiは上場を果たし、「出会い系でしょ?」と軽蔑の眼差しを送っていた大企業が一生懸命広告を出稿し、オフィシャルコミュニティを作っています。また、mixi以外でも、OEM、ASP型のSNSが導入されているウェブサービスは数知れず、そしてナレッジマネジメントのツールとして社内SNSを導入する企業も増えています。
ブログも見通せなかった
企業、そして従来型メディアはブログに関しても当初は軽んじて見ていました。SNSを斬り捨てるには「出会い系」という格好のキーワードがありましたが、ブログにはそういう類のものはなかったものの、影響力が小さいという理由で無視していました。
それが今やマーケティングにブログを考えない企業は存在しません。ブログに関しては、企業がバンバン広告を出稿するには至っていませんが、企業はブロガーを対象としたサンプリングイベントや、ブロガーに自社サービスや商品について書いてもらうように一生懸命になっています。また、従来型メディアはブロガーの意見を気にするようになりました。そして、SNS同様、社内のナレッジマネジメントのツールとしてブログを使う企業も増えています。
従来型メディアでSNSやブログが取り上げられるようになったのは、2004年の後半からで、本格的に取り上げられるようになったのは2005年からです。mixiはその翌年には上場し、Web2.0ブームが到来します。企業、従来型メディア、そして広告代理店は皆、「見誤った……」と思ったに違いありません。彼らは、SNSやブログの動きや可能性を座視するのが遅れたのです。
次は失敗しないぞという意気込み
企業、従来型メディア、広告代理店は、SNS、ブログをマーケティングに利用するのに遅れただけではなく、ネット活用が下手な人達という、21世紀に最ももらいたくないダサいレッテルを貼られてしまいました。次はもう絶対に失敗しない、そして、われはネット最前線だとアピールしたいわけです。
まずは広告代理店。SNSやブログへの対応が遅れたことで「やはり大手広告代理店にはネットのことは分からないんだ」と心の中で思ったクライアントも多かったはずです。そこで、代理店として「次に来るネットサービスはこれですよ」というものを見つけておき逆転ホームランを打つ必要があります。
それは従来型メディアも同じです。SNS、ブログを軽視して記事や番組のネタとして取り扱わなかったものが、今度ばかりは世の中よりも先にネット界の動きをキャッチし、読者、視聴者に伝えたいと思っているでしょう。
そして、一般企業。マーケティング担当者は、経営上層部からSNSやブログの動向を聞かれてしどろもどろし、あわてて調べたというあの忌々しい経験は二度としたくありません。今後は、経営陣に「君、次のネットサービスはなんだい?」と聞かれて、「ハイ、○○です」と答えられるようにしておきたいのです。
そこにSecond Life様のご登場です。
サラリーマンの悲哀がSecond Life傾倒の原因か
Second Lifeにはリンデンドルという換金性のある仮想通貨が存在するので、それが彼らをこれまでのWeb2.0型サービスに対してよりも前向きにさせていることは間違いありません。これがSecond Lifeの一番の魅力であり、Second Life懐疑派な人達でさえ、Second Lifeをバッサリと斬り捨てることができない理由です。
一方で、もう失敗したくないサラリーマンな方々がSecond Lifeを拠り所とした結果、企業、従来型メディア、広告代理店を中心に勝手に盛り上がっているという構図も存在するわけです。Second Lifeは日経MJの2007年上半期のヒット商品番付にランクインしていますが、日本語サービスも始まっていない現状でのその滑稽さは、リンデンドルという仮想通貨だけでは説明しきれないと思います。
ところで、日本語版、いったいいつ登場するのでしょうか…?
保田隆明氏のプロフィール
リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)、『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/
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