レコメンデーションの虚実(6)〜集合知を介して「わたし」の本当の好みを知る方法:ソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)
ネットジャーナリスト佐々木俊尚氏が次世代ソーシャルメディアのかたちを探る連載「ソーシャルメディア セカンドステージ」。これまで取り上げてきたレコメンデーションの手法は、今やソーシャルメディアと切り離せなくなっています。なぜそうなのか、例を挙げて説明します。
ソーシャルメディア的アプローチ
では、ソーシャルメディア的なアプローチはどうだろうか? 人力でソーシャルメディアからレコメンデーションを得る方法を考えてみよう。例えばSNSでオートキャンプ場のコミュニティーを見つけ、そこで知り合った自分と好みの合いそうな人から、お勧めキャンプ場を仕入れる。「2ちゃんねる」の登山キャンプ板で、おすすめキャンプ場を紹介するスレッドを読む。自分とキャンプの好みの合いそうなブロガーを見つけ、その人の過去のエントリーをじっくりと読む。
そうしたソーシャル的なアプローチを意図的に行っていけば、さまざまな新しいキャンプ場の情報を仕入れることができる。検索エンジンで最大公約数的な検索を行うのと比べれば、情報をずっと小さく絞り込むことが可能であり、認知限界を超えることはない。また「わたし」が過去に好んでいたような大人的な静かなキャンプ場だけでなく、思いも寄らない面白そうなキャンプ場の知識を得ることができるかもしれない。例えばこんな情報を見つけて、「過去に行っていたような高規格で上品なキャンプ場ではないけれども、面白いかもしれない」と、新たな世界に目を向けることも可能なのだ。
直火もOKで、サイトから目の前の渓流で釣りができるというまさに理想的なキャンプ場。難点は所々にキャンパーのゴミが見られるというところ、これさえなければパーフェクトに近い。当然、虫が多いので、夏の終わりか初夏が気持ちいい。ガイドブックにないのでキャンパーはほとんど訪れないのも最高。
セレンディピティを得られるアプローチ
このブログのエントリーを読み、オートキャンプ場の好みについて新たな気づきが生まれるとすれば、これこそはセレンディピティそのものだ。このようなケースを考えてみれば、ソーシャルメディア的アプローチのメリットは次のようなものであることが分かる。
まず第1に、人々の集合知によって、「わたし」が属しているセグメンテーションに合わせて情報が絞り込むことができる。最大公約数的な検索エンジンが、最大公約数を志向するがゆえに情報を絞り込めず、結果として認知限界を超えてしまっているのと比較すれば、セグメンテーションによる情報の絞り込みは有効なアプローチといえる。
第2に、「わたし」の過去の履歴に縛られることがない。「わたし」の隠された好みは、過去の履歴の中だけにあるとは限らない。「わたし」の本当の好みと、通常、「わたし」の好みが表出していなければ、「わたし」の本当の好みとそれにマッチしたキャンプ場をダイレクトに結びつけることはできない。アルゴリズムの側は、「わたし」の本当の好みを知りようがないからだ。しかしソーシャルメディアという集合知を介すること――言い換えれば、他の人の思考や発見、好みなどを介することによって、自分の本当の好みとそれにマッチしたキャンプ場をダイレクトにつなげてしまうような魔術が可能になる。つまりソーシャルメディア的レコメンデーションというのは、セレンディピティを実現するアプローチなのだ。
偶然は、自分の力で見つけることは確かに難しい。でもどこかの誰かの力を借りれば、偶然は意外と簡単に見つけることが可能になるかもしれない。そんな昔からのことわざのような教訓が、ソーシャルメディア時代には現実的なアプローチとなりつつある。
さて、先に私は「人力でソーシャルメディアからレコメンデーションを得る方法を考えてみよう」と書いた。ではこのソーシャルメディア的アプローチを、システムとして行う方法はないのだろうか? 次回はその手法について考えてみたい。
佐々木俊尚氏のプロフィール
ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)など。インターネットビジネスの将来可能性を検討した『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)を10月20日に刊行予定。連絡先はhttp://www.pressa.jp/。
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