レコメンデーションの虚実(13)〜ソーシャルレコメンドは友人関係を壊しかねない:ソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)
ネットジャーナリスト佐々木俊尚氏が次世代ソーシャルメディアのかたちを探る連載「ソーシャルメディア セカンドステージ」。お勧めの個別最適化という強みを持つソーシャルレコメンデーションですが、いまのところ無視できない問題点も抱えています。
Facebook式ソーシャルレコメンデーションの問題点
しかしだからといって、このFacebook Adsのようなソーシャルに基づいたレコメンドがパーフェクトかと言えば、実のところそうではない。いくつもの問題が考えられる。例えば次のような問題だ。
(1)友人であるからといって、購入するものの好みまで一致するとは限らない。
(2)友人からのレコメンドがスパム化してしまう可能性がある。
(3)プライバシー侵害の可能性がある。
この1つ目の問題については、連載第7回「“僕が好きな人”が僕の好みを気に入ってくれるとは限らない」で書いた。以下、再掲しよう。
“わたし”にとって、音楽、映画、文学、食べ物の各分野とも“わたし”の好みにぴたりと合うような友人を見つけるのは至難の業だ。そもそもそういう好みのぴたりと合うような“誰か”を見つけたとしても、その“誰か”が“わたし”と気が合うとは限らない。
好みの合わない友人から大量のお勧めが送られてきても、それはスパムにしかならない。例えばFacebook上でつながっている友人がAmazonで盛んに買い物をしていて、その友人の買い物行動がFacebook Beaconで盛んに“わたし”のところにデータフィードとして送られてくるようなケース。好みが合えば、「へー、そんな本も買ったんだ。面白そう」「凄い、目の付けどころがいいね」と楽しめるかもしれないが、しかし友人と“わたし”の趣味がまったく合わなければ、このデータフィードは鬱陶しいスパムになってしまう。
例えば“わたし”はモーニング娘。はまったく興味がなく、どちらかといえば古いジャズの愛好家だが、十年来の親友のDさんはモーニング娘。の熱狂的なファンだとする。2人がFacebookでつながっていると……「DさんはAmazonでモーニング娘。の写真集を買いました」「DさんはTower Recordでモーニング娘。のCDを買いました」「Dさんは今日、モーニング娘。のイベントに行きました」。“わたし”はもうウンザリだ、何とかしてくれ! という気分になってしまう。そしておそらくDさんの側も「なんであいつは古いジャズばっかり聴いてるんだ。うっとうしいなあ」と思っているに違いない。
レコメンデーションによって友人を選ぶ?
そうなってくると、おそらく“わたし”はこのスパム化したうっとうしいDさんの行動を見ないようにするため、Dさんのデータフィードを「読まない」という設定に変更するだろう。mixiでうっとうしいマイミクの日記を「マイミクシィ最新日記に表示させない」と設定変更するのと同じである。つまりは人間関係のフィルタリングである。しかしそうやってDさんのデータフィードをフィルターで排除してしまうと、Dさんとは微妙な距離ができてしまうことになる。Dさんという人間には何の恨みもないし、どちらかといえばそのぼくとつな人柄を敬愛しているほどなのに、Dさんのモーニング娘。がらみのデータフィードを読みたくないばかりにそこに距離を置いてしまう。
そういうことが重なると、やがてFacebook上の人間関係は、同じような趣味志向の人ばかりになってしまいかねない。それは人間関係のたこつぼ化を招いてしまう可能性があるし、ソーシャルメディアの可能性を自ら閉ざしてしまう行為にほかならない。Facebookがこの問題をどう乗り越えていくのかは、今後注目していきたいところである。
2つ目の問題は、いま書いてきたように、本来なら役に立つべき友人の行動のデータフィードが、ただのスパムになってしまうというリスクだ。これについては、次回(ソーシャルスパムの時代がまもなくやってくる)に述べよう。
佐々木俊尚氏のプロフィール
ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)など。雑誌連載に加筆した『起業家2.0 次世代ベンチャー9組の物語』を上梓したばかり。連絡先はhttp://www.pressa.jp/。
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