レコメンデーションの虚実(15)〜Facebook Beaconはいつかは受け入れられるのか?(2/2 ページ)
ネットジャーナリスト佐々木俊尚氏が次世代ソーシャルメディアのかたちを探る連載「ソーシャルメディア セカンドステージ」。最も“とがった”ソーシャルレコメンデーションサービス「Facebook Beacon」の問題点はプライバシー侵害だけなのか、弱点はないのかを考察します。
日本の個人情報保護法下ではFacebook Beaconはあり得ないが
しかしNewYork Timesの別の記事によれば、Facebook幹部らは「批判しているのはごくわずかなユーザーだけだ」と反論し、「時がたてば、ユーザーはBeaconを受け入れるようになるだろう」と言っているという。
プライバシーに対するとらえ方は、確かに時と場合によって大きく移り変わる。日本の厳しい個人情報保護法に慣れている日本人にとっては、そもそもプライバシーに関する連邦法が存在しないアメリカのプライバシービジネス自体が驚くべき存在であるし、Facebook上でユーザーが自分のプライベートな情報を簡単にさらけ出しているのにも驚かされる。Facebookに比べれば、日本のmixiはお互いの顔を覆面で隠しながら喋っているようなものだ。また同じ日本国内でも、携帯電話の世界ではパソコンのインターネット世界と比べれば、比較的プライバシーが重視されない。
そう考えれば、Beaconのようなモデルもさざ波が立たないようにうまく導入されていれば、アメリカ社会に受け入れられる余地は十分にあったのかもしれない。ズッカーバーグCEOをはじめとするFacebook経営陣が拙速に過ぎてしまい、戦術的に失敗したということだけなのかもしれない。
しかしその一方で、BeaconのフィードにはFacebookの内在的な問題があるという見方もできる。おそらく多くの人が不快感を感じたのは、「自分がどんな映画を見たのかとか、どんなチケットを買ったのかという情報が、勝手に友達にばらまかれなんて!」ということだったと思われる。しかしこうした情報は、実は友人との間では雑談の中で日常的にやりとりしている程度の情報でしかない。実際、ズッカーバーグCEOもBeaconの発表記者会見の中で、次のような趣旨のことを言っていた。「友人同士の間で日常的に交わされている会話と同じような関係性の中にFacebookを引き込んでいくのが、Beaconの役割だ」
すべての友人との“距離”を同一視する手法の限界
「今日、こんな映画を見たんだよ」「今度、こういう演劇を見に行くんだ」「この前、すてきなソファを買ったの」。つまりはこうした雑談のやりとりをフィード化したのが、Beaconなのである。しかしこうしたやりとりは、友人のすべてと行うわけではない。高級なソファを買ったという話は、年代が違っていて収入差もありそうな若い友人にはあまり話したくないし(偉そうだと思われるのがオチだ)、忙しい会社の同僚に映画や演劇の話をするのも適切ではない。また自分がかなり変わった趣味を持っている場合、その趣味に関連する行動を、一般社会に生きる友人たちには知られたくないという場合もあるだろう。例えばアニメ系のコンテンツをAmazonで買いあさっているのを、せっかく知り合ってFacebookでつながってくれた可愛いあの娘には、あまり知られたくない。
友人には方向性と距離がある。前者は会社の同僚や趣味の同じ仲間、家族、同級生といった「友達ジャンル」。そして後者は、仲の良さの度合いだ。そう考えると、あらゆう方向性、あらゆる距離の友人をひとまとめにして(ある程度はグループ化ができるとはいうものの、完璧ではない)データをフィードしてしまうFacebook Beaconの仕組みは、やはり物足りない。
そうなると、方向性ごとに別のSNSを作り、それぞれでBeaconを行うというビジネスモデルもあり得るように思えてくる。次回はそのあたりを考えてみよう。
佐々木俊尚氏のプロフィール
ジャーナリスト。主な著書に『フラット革命』(講談社)『グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する』(文春新書)『次世代ウェブ グーグルの次のモデル』(光文社新書)『ネット未来地図 ポスト・グーグル次代 20の論点』(文春新書)など。雑誌連載に加筆した『起業家2.0 次世代ベンチャー9組の物語』を上梓したばかり。連絡先はhttp://www.pressa.jp/。
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