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コラム

レコメンデーションの虚実(最終回)〜ソーシャルレコメンデーションという新世界ソーシャルメディア セカンドステージ(2/2 ページ)

ネットジャーナリスト佐々木俊尚氏が次世代ソーシャルメディアのかたちを探る連載「ソーシャルメディア セカンドステージ」もついに最終回。ネットの情報量が認知限界を超えた現在、ソーシャルレコメンデーションへの期待はますます高まっています。

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期待を集めるソーシャル的アプローチ

 この部分で最も有望視されているのは、ソーシャルによる解決だ。従来の検索エンジンによるアプローチでは、情報への到達方法が最大公約数的であるために「自分ひとりにとって最適化された情報」を得るのが難しかった。かといってパーソナライゼーション的なアプローチでは、過去の自分の情報収集履歴をもとに新たな情報を収集するだけであるため、情報の収集範囲が狭まってしまい、新たな情報との思いがけない出会い(セレンディピティ)が生まれにくい。そうであれば、自分とつながっている人々との間でインフォメーションスフィア(情報共有圏域)のようなものを生成し、このインフォメーションスフィアの中で集約されたデータをもとに的確なレコメンドをしていこうという考え方が生まれてくる。つまりはソーシャルレコメンデーションである。

 このインフォメーションスフィアの圏域は、多重的である。広くはマスメディアからの影響、狭くは家族からの依頼までもが相互に重なり合って、ひとりのユーザーのインフォメーションスフィアを構成している。

 ソーシャルレコメンデーションのメリットは、2つある。まず最初に、ユーザーが属しているセグメンテーションに合わせて情報を絞り込むことができるということ。最大公約数的な検索エンジンが、最大公約数を志向するがゆえに情報を絞り込めず、結果として認知限界を超えてしまっているのと比較して、セグメンテーションによる情報の絞り込みは有効なアプローチになる。

セレンディピティを得やすい

 そして次に、ソーシャルレコメンデーションは過去のユーザーの履歴に縛られる心配がない。例えばAmazonのレコメンデーションは、過去の履歴をもとにした協調フィルタリングを行っているが、しかしここで協調フィルタリングのファクタとして採用されているのはユーザーの過去の購買履歴だけであり、ユーザーのインフォメーションスフィアがどのような状態になっているのか――ユーザーがどの程度テレビや新聞などのマスメディアに触れ、どのような仕事をしていて、どのような好みの人たちと交際しているのかといったファクターは、一切考慮されていない。だからAmazonのレコメンデーションは、往々にして誤ってしまう。しかしソーシャルメディアという集合知を介すること――言い換えれば、自分の周囲の社会の思考や発見、好みなどを介すれば、自分の本当の好みとそれにマッチしたレコメンデーションを的確に提示することが可能になる。これはユーザー本人にとっては、「なぜそこまで私の好みを知っているのか?」という驚きにつながるかもしれない。しかしそれこそが、インターネットのセレンディピティというマジックなのだ。

ライフログ手法は許容されるか

 そしてこのソーシャルレコメンデーションを的確に行うためには、現時点よりもずっと深く精細に、ユーザー個人の属性や行動、所属する圏域などをシステムの側が入手することが必要となる。つまりはライフログである。例えば最近の行動ターゲティング広告は、そうしたライフログ的な広告アプローチのひとつである。だがこうしたライフログ手法は、一方で危険な水域にまで近づいて行きやすい。例えば1990年代にはパソコンに勝手にインストールされてユーザーの行動を収集するアドウェアがコンピュータウイルスと同じような扱いをされて毛嫌いされたし、2000年には行動ターゲティング的な広告を実施しようとしたネット広告大手のダブルクリックが、プライバシー保護の消費者団体であるEPIC(エレクトロニック・プライバシー・インフォメーション・センター)が「知らないうちに勝手にデータを収集されている点が根本的におかしく、情報収集が発生する前に利用者の許可を得ていない」と指摘し、米連邦取引委員会(FTC)から調査を受けるという事件も起きている。

 とはいえ、この方向性はいまや逃れられない未来となりつつある。認知限界の壁を前にして、われわれはこうしたプライバシー侵害になりかねない手法によって的確な情報アクセスを得られる未来を選ぶのか、それともプライバシー侵害を徹底的に排除し、しかしネットの海におぼれかねない状況を招くのかという、二者択一を迫られているようにも思える。

 この怪しげかつ重大な難問を、どう判断していくのかは非常に難しい問題だ。

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