取材の方法論を変えたハイビジョンカメラ:小寺信良の現象試考(3/3 ページ)
キヤノン「HF10」とソニー「HGR-TG1」、2つのハイビジョンビデオカメラを取材で利用する機会があった。子どもの成長を撮るだけではなく、仕事のツールとして利用する“ビジネスビデオカメラ”の可能性も検討する余地があるように思える。
ソニーの逆襲
ソニーのHDR-TG1も、最近取材で使用する機会に恵まれた。携帯性の良さではTG1に軍配が上がるが、このモデルの最大のネックは、拡張性がほぼゼロであるところだ。特に取材で問題になるのは、大型バッテリーが付けられないことである。標準バッテリーでは連続撮影時間が95分と、不安が残る。
予備バッテリーを用意すればいいのではという意見もあるだろうが、例えばインタビュー取材をしていると、途中でバッテリ交換するのはこれまた話の腰を折ってしまうので、あまりよろしくない。筆者は非常に「気ぃ使い」なのである。またバッテリーが切れていることに気がつかないという最悪のケースは、確実に回避しておきたい。
この解決策は、意外なところから開けてきた。ソニーのハイビジョンカメラは、他社があきらめたSDモードでの撮影もサポートし続けている。これは2つの面でメリットがある。1つは、SDモードで撮影すれば、同じバッテリーで連続2時間の収録が可能なこと。もう1つは、PCに吸い上げてファイルを再生するときの扱いが容易なことである。
SDでの取材収録だと、コンベンションの取材時に便利だった動画から静止画を起こす機能は使えないが、画角はHDと同じで、PC上での視認性も問題ない。SDはMPEG-2 Long GOPでエンコードされるが、H.264に比べて電力効率がいいようだ。
もう1つMPEG-2であるメリットは、AVCHDと違ってWindows Vistaの「画像の取り込み」機能で、静止画と一緒に動画も自動で取り込んでくれる点だ。今のところVistaの「画像の取り込み」はAVCHDのフォルダ構造やファイル形式を理解しないので、HDで収録した場合は別途専用の取り込みソフトを使って、取り込みと映像管理をする必要がある。取材でなくても、この手のカメラでは動画と静止画は常に関連しているので、写真と一緒に日付でアーカイブしたほうが効率がいい。
また動画同時撮影の静止画も2.3メガ程度まで撮れるので、Web記事なら十分対応できる。動画の解像度を下げても静止画は高解像度のままというスタイルは、昔の三洋電機「Xacti」シリーズと似ている。実は現行のXacti「DMX-HD1000」では仕様が変わって、同時撮影静止画は、動画解像度と連動して小さくなるようになってしまった。これは静止画撮影時に動画も一瞬静止画になってしまうという点を、ユーザーが嫌ったことによる「改善」だという。もちろん対多数のニーズがそうならば仕方がないが、前の仕様のほうが便利だったというニーズもせっかくあったのに、もったいない話である。
TG1の画角は静止画のワイド端で38ミリと、HF10よりやや広いものの、まあたいして違わない。ただこちらは構造的にワイコンが装着できないという点で、拡張性が最初から限られる。
2つのカメラを取材用途として使ってみた感想としては、HF10はコンベンションや製品発表会など、何が撮れるか分からない現場でのハイビジョン撮り、TG1はある程度状況が想定できるインタビュー向きと言える。ちょうどTG1には顔検知機能があるため、人物にフォーカスする取材には特に向いている。
本音を言えば、ハイビジョンカメラをベースに、もっと取材用に特化したカメラを作って欲しいところだ。例えばPCは開発競争の末に機能が横並びになりつつある中で、ビジネスモデルなるものが登場して一定のジャンルを築いた。ビデオカメラも、ビジネスモデルの可能性を検討してみる余地はあると思う。もしかしたら、そういったとんがったカメラを面白いと思う一般層も、あるかもしれない。多様性への窓は、常に開かれていると思いたいところだ。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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