部下のモチベーションを上げるコミュニケーション(5):コミュニケーションをワンランクアップ!(2/2 ページ)
「コミュニケーションスキル」の最終回は、ミラリング・ペーシング・バックトラッキングと、感覚傾向に合った対話をフル活用した、部下のモチベーションを上げるコミュニケーションを紹介します。
マッチング&リーディングの例
次の例を見てください。
上司 (早口ではつらつと)「最近、どうしたの!」
部下 (ゆっくりとした口調で)「実は、先月ダンナがちょっと入院しちゃって。この間、プロジェクトが2、3件、かたまってあったじゃないですか。あれが、ちょっと辛かったんですよ」
上司 「いや、でも、がんばってたよね!」
部下 「いや〜、でも今頃ちょっと疲れが……」
上司 「いやいや、よくやったよ!」
部下 「あれがすっかり終わったあとなんで、ちょっと気が抜け……」
上司 「いや、でもちゃんとできたと思うよ!」
部下 「いや……」
これはダメですね。モチベーションが下がっている人に、やる気を出させようとしていますが、マッチングができていません。
では、次の例はどうでしょう。
部下 (ゆっくりとした口調で)「先月、ダンナがちょっと入院しちゃって、そのとき、案件が、ちょっとかたまってたもので……」
上司 (ゆっくりとした口調で)「かたまってたんだ」
部下 「今頃ちょっと、気が抜けちゃったんですかね」
上司 「気が抜けちゃったんだね」
部下 「ちょっと、がんばり過ぎちゃったかな〜って」
上司 「そうなんだ〜」
このように、まずマッチングを取っていきます。では、続いて──。
部下 「でも、実はA社とB社は、自分が思ってたより、なんとかうまくいったので……」
上司 「そうだね。うまくいったよね」
部下 「ええ、まあ、だから今ちょっと安心している感じもあって」
上司 「安心している感じもあるんだね」
部下 「だから、今は集中力が欠けてしまって、C社がちょっと難しい感じで……。まだバランスがうまくとれない感じなんですよね〜」
上司 「なるほどね……A社とB社がうまくいったって言ってたけど、具体的にどういう点で?」
部下 「A社は担当の●●さんとうまくコミュニケーション取れたので……」
上司 「あ、●●さんとうまくコミュニケーション取れたんだ」
部下 「はい、そこだけはちゃんとやろうと思って」
上司 「そうなんだ」
部下 「それが良かったんだと思います」
上司 「それが良かったんだね。では、B社の上手くいった点は? もうまくいったんだよね」
部下 「B社のほうはですね──」
この例のように、うまくいった部分と、うまくいっていない部分がある場合には、うまくいっていない話ばかりしていると、もともと元気のなかった部下がさらに暗くなってしまいます。でもうまくいっている部分があって、それを本人が言い出したら、そちらの方をまずは集中して聞いていきます。すると本人はうまくいった方をたくさん話すことになるので、結果的に少しずつ前向きな良い状態になってくるのです。このようにいい状態をつくってから、その後で課題の話に移っていく。このようにマッチング&リーディングで、相手のいい状態を引き出します。
これを頭ごなしに、「AとBがうまくいってるから、いいじゃないか」と、信頼関係を築く前にやってしまうと、次のようになります。
部下 (静かな口調で)「先月、ダンナがちょっと入院してたもので……」
上司 (大きな声で)「いや、A社とB社はすごく、うまくいってたじゃん!」
部下 「まあ、うまくいったんですが、すごく辛かったんです」
上司 「いや、でもA社はすごく良かったよ」
部下 「でも……C社の方が」
上司 「いやいや、だってB社もうまくいったんでしょ!」
部下 (だんだん声が大きくなる)「でも、気が抜けて、今、あまりC社がうまくいってないんですけど!」
上司 「いや、A社もうまくいってるじゃない!」
(だんだん言い争いの雰囲気になってくる)
このようなマッチングのないリーディングは、いくら事実だとしても、心理的に抵抗を受けてしまいます。次に、もう1つ悪いリーディングの例をお見せしましょう。みなさんも気がつかずに、やっているかもしれません。
部下 (静かな口調で)「先月、ダンナが入院しちゃって。プロジェクトがかたまっていて結構辛かったんです」
上司 (静かな口調で)「辛かったんだ、そっか〜」
部下 「ええ。もうホントに眠れないし、家に帰ったら病院に行かなきゃいけないし……」
上司 「病院に行ってたんだ」
部下 「まあ、でもA社とB社は、結果的にはうまくいったんで、自分としては、ちょっと安心してるかな、という感じですね。ただ、C社の方が今、ちょっと大変になってきていて……」
上司 「C社、大変なんだね」
部下 「集中力が、ちょっと欠けているんですよね〜」
上司 「集中力が欠けちゃってるんだ」
部下 「ちょっと、気持ちのバランスがとりにくくなっている感じなんです」
上司 「バランスが取りにくくなっちゃったんだ」
部下 「結構、ヤバイですよね〜」
上司 「確かにヤバイね」
部下 「ここからどうやって抜けたらいいのか、自分でもわからない状態で、ぐるぐる回っちゃって……」
上司 「抜けられないのはつらいよね」
部下 「一歩を踏み出すのが……」
上司 「踏み出せないんだね」
部下 「ウチの部署、今、人が足りなくて……」
上司 「人も足りないし……」
部下 「誰に相談していいのか……やっぱりC社は無理そうな気がしてきました……」
上司 「は〜……C社ダメなんだ、やっぱり」
この例だと、マッチングはしていますが、そのままネガティブな点にばかりマッチングし続けているので、モチベーションは上がらないどころかどんどん下がっていってしまいます。多くの人は、先ほどの例のように、頭ごなしにモチベーションを上げようとするか、今回の例のように2人でどんどん落ち込んでいくかの、どちらかをやりがちです。2人で落ち込むと、「じゃあ、今日、飲もう!」で終わってしまう(笑)。マッチングした後は、向かいたい方向へリーディングしていかないといけません。
リーディングには比較的高度なスキルが必要ですが、機会を見つけて、少しずつチャレンジしてみましょう
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