書籍編集者が運営する生活改善応援サイト――早起き生活・百瀬央さん:田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪
生活改善応援サイト「早起き生活」を運営するのは、書籍編集者の百瀬央さん。職業に必須ではないプログラミングを学んだきっかけは、エンジニアに「どうせ技術のこと分からないんでしょ」という態度を取られ、悔しかったからだという。
生活改善応援サイト「早起き生活」を運営しているのは、たった1人のビジネスパーソンである。本業はコンピュータ系書籍の編集をしている百瀬央(ももせ・ひろし)さんだ。
百瀬さんはコンピュータ系の書籍を手がけるが、いわゆる“職業プログラマー”であったことは一度もない。独学でプログラミングを学び、サービスの企画をし、サーバを立てて、数千人のユーザーのために日々「早起き生活」を運営している。
「自分自身、起きる時間にブレがあったのです。このままじゃいけないなぁ、と思って」。それが百瀬さんが「早起き生活」を作るきっかけだった。
「早起き生活」では、朝起きた時にボタンを押すだけで、サービス内に作ったマイページに起きた時間を記録し、グラフにもしてくれる。作ったグラフはブログパーツとして貼り付けることも可能だ。また、1週間に1回、自分の起床時間の記録をまとめて送ってくれる機能や、日記をつける機能もある。
百瀬さんはユーザーがつけて公開されている日記を読み、どういう風にサービスが使われているか、どこをどう改善したらいいかを日々模索している。
「早起き生活」サービス提供の苦労は?
1人で運営していて辛いことはないのだろうか。
「あまり悪いことはないですよ。頑張ってください、というメールをいただくこともあってうれしいです」。笑いながら百瀬さんはそう語る。
変わったエピソードとしては、うつ病の人からメールをもらったことがある。「起床時間の記録を印刷するにはどうしたらいいか、というメールだったのです。病気のことはよく分からないのですが、彼いわく、早起きすることによって生活リズムが良くなって病状が改善するらしいのです。それで起床時間をお医者さんに参考のために見せたいから、ということでした。こういった使い方は想定していませんでしたが、良いことができているな、とうれしかったですよ」
あるとき、サーバの電源が壊れて、Webサイトが落ちてしまった。「金曜日の夜でした。サーバにつながらなくなってしまい、すぐにタクシーを飛ばしてサーバを取りに行きました。自宅までサーバを持ち帰り、いろいろパーツを交換して、ようやく電源が問題だということが分かりました。次の日の朝、すぐに電源を交換しましたよ。そのトラブルのときもユーザーの方から応援していただきました。個人で運営していることを理解してもらっていて、暖かく見守られている実感がありますね」
百瀬さんは「朝起きてすぐPCをつけるのは早起きに良い」と考えている。「朝起きてすぐに明るい画面を見ると目が覚めますからね」。彼自身もこのサービスを使うようになって生活のサイクルが改善されたという。
ただ、ユーザーから「寝る時間を記録するようなサービスを作ってください」と何度も要望が来るのにはちょっと困っているという。「寝る時間を記録するのは効果的ではないのですよ。寝る前にPCをつけたら眠気がさめてしまってかえって眠れなくなりますから……」。苦笑いしながら百瀬さんはそう指摘する。しかし、多くのユーザーに支えられていることが百瀬さんのモチベーションにつながっているのは確かだ。
エンジニアに「どうせ技術のこと分からないんでしょ」という態度を取られ……
百瀬さんはどのようにプログラミングを学んだのだろうか。
「中学生のときにFM NEW 7を買ってもらいました。そのときはBASICなどをやりましたね。中間色を出したり、線を引いたりしていました。そのあと、速度を求めてマシン語の打ち込みをはじめたのですが、あまりに難解で挫折しましたね(笑)。その後、高校に入るとバンドにはまってPCはほとんど使わなくなりました。再開したのは20歳のときにアカデミックパックで買ったVisual Basicからです」
Visual BasicではWindows用のプログラムを書いた。バンドをやっていたこともあり、キーボードを抱えてファンクションキーとテンキーを使い、ウクレレ演奏ができるソフトウェアだ。
「Visual Basicはオブジェクト指向に近いですからね。その後、その流れでC++を使うようになりました。『早起き生活』はPHPを使っていますが、その時のプログラミングスタイルが役に立っていますよ」
Visual Basicを経てPHPではじめて作ったのは携帯のサイト。「iモードで携帯サイトが作れると聞いて、すぐに作りましたね。電卓ツールとか3択クイズとかをPHPとデータベースで作ってみました」
その流れで百瀬さんはネットサービスを開発するようになる。最初にプログラムしたのはWikiのシステムだ。「Wikiはプログラミングを学習するには最適ですよ」と百瀬さんは主張する。「入力を整形する、データ保存はテキストでもデータベースでもいいし、認証をかけたり、ユーザー管理ができる……サービスの基本はWikiの開発で学びました」
次に作ったのはオンラインのブックマークサービス。「ユーザーは1人しか増えなかった(笑)」というこのサービス、今でも自分で使っているという。百瀬さんを次々に開発に駆り立てる理由は何なのだろうか。
「実は仕事上エンジニアの方とよくお話させていただくのですが、たまに『どうせ技術のこと分からないんでしょ』みたいな態度をとられることがあって……悔しいから勉強してやる! と思ってやり始めたら面白くなって、というのが本当の理由です(笑)」
ザウルス内のテキストでToDo管理――百瀬さんの仕事術
本業を持ちながらも1人でネットサービスを運営する百瀬さん。彼の仕事術について聞いてみた。
「言語はPHP、データベースはMySQL、エディターは秀丸エディタ、ブラウザはDonutですね。Firefoxもテスト用に使います。その他のツールはPhotoshop Elements、Selenium、SVNなどですね。あと変わったところでは『早起き生活』のヘルプページを自動生成するツールを自作しました」
テキストでヘルプの文章を書き、それをHTMLに一発変換するこの自作ツール、以前開発したWikiの経験が役立っているという。面倒なことはなるべく自動化していくことで作業の効率化を図っている。
PDAのザウルスを愛用している。「テキストエディタがすぐ立ち上がるのがいいですよね。あとやっぱりタッチタイプはしたいので……そう考えると、このぐらいの大きさがないとやっぱり辛いのです」
ザウルスでは3つのテキストファイルを管理している。それぞれ「日付ごとに管理されたToDo」「いつかやるToDo」「日記・アイディア」である。ToDoはその日にやることが重要なもの順に並んでいる。その日に終わらなかったら次の日にコピー&ペーストしていく。ある程度長期的な目標は「いつかやるToDO」のテキストファイルで管理する。器用にファイルを切り替えながら百瀬さんはそう説明してくれた。
実にシステマチックにやるべきことを管理している百瀬さんに、モチベーションについて聞いてみた。「やる気のないときですか? そうですね、やるべきことを先に日記に書いてしまう、というのはたまにやります」
先に「10:00出社、10:30から○○の仕事を始める」といった具合に日記に書いてしまう。そうすることで「書いたからにはやらなくちゃ」という心理が働くそうだ。「始めたらこっちのものです。とにかく何を始めるか、を書くようにしていますね」
ネットサービスの開発はもっぱら週末にカフェで行うそうだ。「家にいるとテレビやネットを見ちゃいますから。カフェで開発していると、5時間ぐらいすぐに経ってしまいますね」
百瀬さんは「早起き生活」以外にも複数のネットサービスを開発・運営している。今、構想段階にあるのは「博物館の口コミサイト」。「休日に奥さんと遊びにいくのですが、いつも思いつきで動いてしまって失敗するので……何かに特化した口コミサイトがあれば楽しく遊べるようになるかな、と(笑)」
本業とネットサービスをバランスよく運営する百瀬さん。これだけの活動をしつつも、きちんと家族との時間も大事にする愛妻家である点が好印象な、スーパービジネスパーソンであった。
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