210円の万年筆は“万年筆”といえるのか:週刊「仕事耕具」
万年筆というと1万円程度の製品がボリュームゾーン。50万〜100万円の高級品も珍しくない。そんな中、200〜300円台の低価格製品が売れている。
万年筆は、こだわりのアイテムだ。本体だけでなく、ペン先やインクの種類、それらによって生まれる書き味は千差万別。1万円程度がボリュームゾーンで、50万〜100万円の高級品も珍しくない。なかなか手が届かないというイメージが強い万年筆だが、実は200〜300円台の低価格製品も売れているのだ。
低価格帯の万年筆が売れる
2005年4月に発売したパイロットの「Petit 1」(ペチットワン)は、315円の低価格万年筆。発売から1年間で500万本を売り切った。プラチナ万年筆が2007年2月上旬に発売する「プレピー万年筆」も、210円という価格設定で年間300万本の売り上げを目指す(2月2日の記事参照)。プラチナ万年筆が発売した万年筆の総年間売り上げ本数が21万本だというから、低価格帯の万年筆にいかに期待しているかが分かるというもの。
パイロットによれば、50〜60歳のいわゆる団塊世代は、学校を卒業、もしくは会社に入社して新社会人になった昭和40年代にお祝いとして万年筆をもらい、これまでの万年筆市場を支えてきた。その半面、団塊ジュニア世代以降は万年筆を使わないどころか、まったく触ったことがない人も少なくないという。低価格の万年筆は、こうした40歳以下の中堅・若手ビジネスパーソンや学生に万年筆を知ってもらうための「ターゲットを絞った製品」(同社)なのだ。
万年筆の“条件”とは
販売は順調な低価格の万年筆だが、パイロットのWebサイトでの扱いは微妙だ。万年筆の製品紹介ページでは、Petit 1と1988年に発売した「Vpen」(210円)を「万年筆タイプのサインペン」に分類しているのである。
どんな条件を満たしていれば“万年筆”と呼べるのだろうか。プラチナ万年筆によれば、その筆頭条件は「ペン先にイリジウム合金であるイリドスミンを利用していること」。イリドスミンとは、イリジウム、オスミウム、白金、ルテニウムの合金で「ダイヤモンドに次ぐ硬度」だという。万年筆が“万年”筆足りうるためにも、耐久性や硬度が必要――というわけだ。
パイロットでは「インクの補充ができること」「洗浄できること」をポイントに挙げた。「何万年も」とまでは大げさだが、永く使い続けるには切れたインクの補充や、インク詰まりを洗浄できることといったメンテナンス性も大事ということになる。
また、いわゆる万年筆のよさは、「使う人に応じたカスタマイズ性」(パイロット)だという。自分にあった本体やペン先、インクを探し、何十年も使う。「人間よりも“長生き”」というのもあながちあり得ない話ではないのだろう。
「ペン先にイリドスミン」「インクの補充」「洗浄」「カスタマイズ性」が“万年筆の条件”だとすると、インクの補充ができないVpenや、洗浄できないPetit 1は、万年筆の条件を満たしているわけではない。そもそもパイロットの低価格万年筆にはイリドスミンを使用していないのだ。プレピー万年筆はイリドスミンを使用し、インクの補充や洗浄が可能。だが、カスタマイズ性に関してはPetit 1、Vpen、プレピー万年筆ともにインクカラー程度しか選択の余地はないのである。
万年筆の世界に興味を持ったら……
低価格万年筆が条件を満たさなかった理由は、主に商品寿命とコストのためだ。日常的に使う低価格万年筆に厳しい条件を求めるのもツラいが、書き味など一部の“万年筆らしさ”は再現しているという。条件を全て満たした1万円以上の売れ筋製品には手が出ない――そんな人が万年筆の世界に興味を持ったら、低価格製品を使ってみるのもありだろう。
ここ2〜3年、市場自体も拡大を続けているという万年筆。「ボリュームゾーンは1万円だが、2万円、3万円、5万円台の製品も売れ行きは増加している」(パイロット)。低価格製品を投入して、各社は市場のさらなる拡大を目指す。
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