実世界とコンピュータ世界の融合――ソニーコンピュータサイエンス研究所:日本全国ラボめぐり(2/3 ページ)
ソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)の研究員、暦本純一さんの研究テーマは「実世界とコンピュータ世界の融合」だ。無線LANを使って現在位置を特定する「PlaceEngine」や現実のカードとCGを融合するゲームなどの成果を上げている。
無線LANで現在地を特定する「PlaceEngine」
秋元 今一番力を入れている研究はなんでしょう?
暦本 「PlaceEngine」関連の研究ですね。一言で言うと、無線LANの電波を利用して自分の場所を特定する技術です。
秋元 衛星を使ったGPSとは違うんですね。
末吉 はい。GPSと無線LANは、搭載している機器が違うこともあって、それぞれ得意とする領域が異なります。
無線LANの場合、無線LANの基地局があれば、屋内でも場所を特定できます。最近はほとんどのノートPCに無線LAN機能が付属するので、特別な機器をつけなくても、位置情報を取れるのが利点です。
PlaceEngineのWebサイトでは、もともとマッシュアップ向けにソフトウェアとAPIを公開しています。APIを公開してフリーで試してもらうことで広めようと考えています。
秋元 PlaceEngineのAPIを使っているマッシュアップ作品は見たことあります。サイボウズ・ラボで僕の後ろの席の人も作ってました(笑)。
末吉 SkypeなどのインスタントメッセンジャーやTwitterで、自分の最新の場所を自動的に公開したりというマッシュアップもできています。ネットで広く使ってもらって、その効果を見せることで商品化チームと話が進みやすくなったこともありました。
暦本氏作成のSkypeのオンライン情報を利用したメッセンジャー「MyRadar」で自分がいる位置を公開する。登録している相手との距離が「4メートル」「11メートル」「7キロメートル」のように表示される
PlaceEngine技術、初の商用化はPSPのゲーム「みんなの地図」
PlaceEngine技術の商用化は、4月26日に発売となった携帯ゲーム機PSP用「みんなの地図2」が最初。外出中に、現在地点周辺の店舗などを検索できる。このソフトにはGPSモジュールも付属するので、屋外か屋内か、といった状況に応じて、位置情報の取得方法を選ぶことが可能だ(2006年11月14日、3月15日の記事参照)。
PlaceEngineでユーザーの現在位置を推定するために利用できる測定可能なアクセスポイントの電波情報は、現在50万件程度。利用エリアは現在のところ東京都市部が中心だが、国内政令指定都市の主な商業地域の一部で利用できる。
秋元 PlaceEngineの研究は、かなり長くされているのですよね。
暦本 はい。以前から「ライフログ」というコンセプトがあって、PlaceEngineもその延長線上にあるものです。
カメラを頭につけて24時間自分が見ているものを撮影して、自分の人生(ライフ)を記録(ログ)するというのがライフログです。以前からいろいろな実験が多くの研究者によって行われています。ただし、背中に大きな記録デバイスを背負う必要があるなど、実際に毎日続けるには忍耐が必要でした。
秋元 それがノートPCや携帯ゲーム機でも可能になってきたのですね。
暦本 位置情報のデータは写真や動画よりも小さいので、PlaceEngineの載った最小サイズの機器を作って、それをポケットに入れておけば自分の位置情報が記録される、といったことが負担なくできます。
実際に、被験者2人にライフログを行ってもらっています。長期間蓄積したデータを地図上に表示しました。
プライバシーの問題もありますが、活用する方法はいろいろとあると思います。ある人の位置情報の変化を蓄積して解析できていれば、例えばその人は「新宿に行った後は渋谷にも行っている」という傾向が分かるかもしれない。そうすると、新宿にいる人に対して、渋谷に関する案内を先回りして提供することも可能なわけです。
ほかには、特異点を探すとか。いつも行くところ以外の地点に行った日には、特徴的なデータがあるはずです。例えば、普段と違う位置にいた日について、Flickrなどの写真サービスで写真を探すと、旅行や行事の写真が簡単に見つかるかもしれない。
秋元 人が頑張らなくても便利になるアイデアですね。
暦本 他にもたくさん考えていることはあります。簡単に蓄積できるようになった位置情報のデータをどうやって面白く使うか、どう実際の役に立てるか、というのを考えるのが今の研究です。
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