第2回 コミュニケーションがスムーズなとき:良いコミュニケーションを取るために
前回は“コミュニケーションに誤解が起きていないか?”という点を、「やる気を出せ」という言葉への反応から探ってみました。ではいよいよ具体的なコミュニケーションスキルに入っていきます。
これからいよいよ具体的なコミュニケーションスキルに入っていきます。(1)「良いコミュニケーションが取れているときの特徴」 (2)「良いコミュニケーションを取るための態度 (3)「良いコミュニケーションを取るための言葉使い」という、コミュニケーションの3つの基本をご紹介しますが、まず今回は「特徴」について取り上げます。
良いコミュニケーションがとれている時には、次の5つの特徴があります。
- 相互尊敬:能力、技術、役割、立場の違いに関係なく、相手を大事に思える
- 相互信頼:無条件に相手を信じられる
- 協力:相手と力を合わせて全体の利益を上げる
- 共感:自分の損得に関係なく相手の立場に立てる
- 目標の一致:何のためのコミュニケーションかが全員で認識されている
以上の5つの特徴について、1つずつ紹介していきましょう。
(1)相互尊敬
1つ目の「相互尊敬」とは、能力、技術、役割、立場の違いに関係なく、相手を大事に思える状態です。この反対が、条件によって人を区別し、大事にしたりしなかったりする状態です。自分よりも目上の人には丁重で腰の低い対応をするけれど、部下など目下はバカにする、できる部下にはすごく大事に接するけれど、能力がない人には侮辱するような言い方をする。これでは良いコミュニケーションは取れません。
もちろん、その人の能力がないことに目をつぶる必要はないです。できていないのにできているという必要はありません。ただ、できていないけれど、がんばっているところはちゃんと見ているとか、人として対等に見ることができる、ということが非常に大事なのです。
私はこう見えても昔、高層ビルの窓拭きをやっていました。高層ビルの窓拭きをしながら専門学校の講師もしていたのです。専門学校の講師をしていると、年配の方でも、先生、先生といって立ててくれます。そして翌日には青いつなぎを着てビルの窓拭きをしている、というような感じです。
窓拭きは毎日現場が違うんですが、あるとき最上階のトイレに行こうとすると、そこの掃除のおばさんが「あなたみたいな汚い人がここをうろついてはダメ。地下のトイレを使ってくれ」と言ってきました。確かにルールでそうなっているかもしれませんが、本当に汚いものを見るような口調で言われたのです。講師をしているときとはすごく違う対応ですね。こういう接し方では絶対に良い関係は築けません。
ルールを守るか破るか以前に、相手を対等に見ているかどうかが大事です。お互いに尊敬できないようでは、いい関係が築けません。
いい関係ができているときは、相手の能力や立場に関係なく、その人を大事に思えます。リーダーシップを発揮して、部下指導がしっかりできて、自分も業績を上げている人は、お客さんに対して必要以上に下手に出ません。できるときは精一杯やるけれど、ノーを言うときは言います。自分の上司に対しても媚びることなく、しっかり意見を言うときは言うし、従うときは従う。部下に対しても同じく、上から押し付けて言うのではなくて、部下の意見をちゃんと聞き、能力が違うにもかかわらず認めるところは認めて、任すときは任せる。できる上司というのは、人に差別なく、どんな人とも対等に接することができているのです。
(2)相互信頼
良いコミュニケーションが取れているときは、相手のことを無条件に信じられます。簡単なことではありませんが、この相互信頼があるときは必ずいい関係ができています。
例えば上司と部下の関係で、部下が数字を上げているときは信じるけれど、成績が悪くなった途端に「こいつはダメだな」と上司が思ってしまったら、その二人はいい関係が築けません。3〜4カ月くらい成績不振なときがあっても、「僕は君を信じている。数字は絶対上がるに違いないから」と信頼していれば、いい関係が築けるばかりでなく部下の業績も上がってきます。
私の師匠のカウンセラーが、ある女子中学生をカウンセリングしていて実際にあった例を紹介しましょう。ある日、カウンセリングが終わってその子が帰った後に、サイフの中からお金がなくなっていることが分かりました。最初は6000円あったのに、4000円なくなっていたのです。明らかに、その子がやったと分かりました。
次の週、彼女は自分が盗んだと指摘されるのではないかと、ちょっと意識しながら来ているのが分かりました。でも、一切お金の話をせずに、彼女を信じ切ってカウンセリングを進めました。本当に親身になって相談に乗ってあげたのです。そうこうして1カ月くらい経った頃、ふと見るとサイフの中身が2000円増えていたんです。さらに2週間経ったら、また2000円増えていた。4000円が返ってきたんですね。
こんなふうに、疑うのではなく、完全に信じきれると良い結果が出るようになります。もちろん、ビジネスの問題では全部が全部信じたままというわけではいきませんが、まずは自分の社内、部内、少なくともチームメンバーくらいは信じられるようにし、広げていきましょう。
次も実際あった話です。全国のガソリンスタンドを運営しているA社。A社は直営のガソリンスタンドを指導、運営していますが、お店自体は独立採算制です。A社から指導のためにスーパーバイザーがスタンドに出向いてきますが、実際にはスタンドが自分たちで独立して営業している、という感じです。
さて、スタンドはA社から石油を仕入れるのですが、A社から卸した石油よりもほかから買ったほうが安い場合がある。直営店だからA社から買うのが普通なのに、独立採算制なので、何円か安いよそから買った方がスタンドは得をします。では、指導するスーパーバイザーは、「よそから買っているのでは?」と問いただすかというと、そうはしない。問いただしても、スタンド側は「していないよ!」と言って、余計ギクシャクするだけだからです。
明らかによそから買っていることは分かっているけれど、そのスーパーバイザーはそうは言わずにこう言いました。「たまに高いときがあるのに、いつもウチで買ってくれて本当にありがとうございます。僕にできることは精一杯やりますから」と。そして、精一杯情報提供やお店運営の改善について指導や提案をする。毎回、相手を信じきってコミュニケーションを取っているうちに、そのスタンドの店長はだんだんほかから買うことができなくなってきてしまった。「ここまでウチの店のことを思ってくれて精一杯やってくれている」と思うと、ちょっとくらいほかが安いからといって、A社を裏切れなくなってしまったのです。
すべてがこんなに簡単ではないし、シメシメと思ってやる場合もありますが、人間は信じきられると最終的には弱いものです。夫婦関係でも、夫から「お前浮気しているんじゃないか? 浮気しているだろう?」とずっと言われ続け、思われ続けていると、妻も反抗的に「そうよ!」と浮気したくなるものです(笑)。でも、夫に「本当にいつもありがとう」と心から思われ、言われ続けていると、実は浮気していて最初はシメシメと思っていた妻も、そのうち「こんなに私を信じてくれているのだから……」となるものです。確かに簡単ではありません。でも、良いコミュニケーションが取れているときは、このように無条件に相手を信頼できます。
次回は、残りの特徴である「協力」「共感」「目標の一致」についてご説明します。
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