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ディスカッション──企業のイノベーションを考えるイノベーションの現場から(2/3 ページ)

企業や組織がイノベーションを生み出す環境にあるかどうかの基準となることを目指して生まれた「イノベーション・テスト」。この道具を使い、実際の企業で現場で起こっているイノベーションを生み出しているのは何なのかを探る。

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実際のイノベーションとは

──イノベーションとは何か? という時に、最も重要なのが“非連続性を伴う”という答えが見えてきました。また市場を創造するという要素もあります。では、具体的には、どんな例が当てはまるのでしょうか。

アプレッソ 小野和俊氏

許斐 非連続であるということと、産業構造に変化をもたらすものであること。その意味では、iPodや初代ウォークマンなどが当たるのではないだろうか。

神成 初代ウォークマンは、その後音楽を聴くスタイルを完全に変えたということが挙げられる。

小野 ライフスタイルが変われば、自然と、市場構造も変わる。

許斐 それを英語ではSystem of Useとも言います。

神成 ウォークマンは全く新しい市場を生み出した。これまでなかった、ポータブルの市場を作った。

許斐 これまで音楽というのは複数人で聞くのがメインだったのが、ヘッドフォンを使って個人で聞くというスタイルを生み出したということもありますね。

──では、今回の定義では具体的にiPodのどこがイノベーティブなのでしょうか?

 デジタルオーディオ自体は全然新しくないが、当時のプレーヤーは、サイズを小さくしてPCとの連携をしただけで、カセットテープと同じように、ピックアップした音楽を持ち運ぶという方向だった。その点iPodは、曲を持ち運ぶのではなく同期をするんだ──としたことと、ユーザーインタフェースを徹底的にこだわったことが違う。

神成 自分のライブラリを全部持ち歩くからこそ、ユーザーインタフェースにこだわる必要があったわけ。そのライブラリを持ち運ぶということで、ユーザーの意識を変えた。面白いと思うのは、積み上げた機能を比較するのではなくて、要はこうなんです──という1つのメッセージに従って機能がデザインされている点ですね。

小野 そういった点では、イノベーションとしてOK。

 長らくイノベーションは、テクノロジーイノベーションを伴うものという見方が一般的だった。これまでの多くのイノベーションは、前提にテクノロジーがあったわけです。例えばラジオにはトランジスタ、デジカメにはCCD。そういう意味でいうと、僕らのいまやっている議論が違うのは、技術のコモディティ化があった上での議論になっている点ではないか。

 最近(新開発の)デバイスを持っていることによるイノベーションは難しくなっている。(デバイス的には特に新しい技術のない)「Wii」が注目されてしまうのがいい例ですね。

許斐 iPhoneも面白いと思うんです。ただし、これがイノベーションなのかというと、すごくクールだし売れているが、本当に非連続な変化をもたらしているかというと微妙かもしれない。

 米国携帯市場はよく分からないが、キャリアと機器メーカーの関係を逆転させたというのは面白いと思う。日本では500ドルで作った携帯を300ドルで売っているときに、彼らは300ドルで作った携帯を600ドルで売っている。

 もう1つは、電話を売るときのオペレーションコストの大半はアクティベーションだということ。iPhoneではアクティベーションをiTunesでやる。だから端末は売り切りで、店頭ではiPodを買うときと同じになる。そういう意味では、これまで何にお金がかかっているかをよく考えているか、よく練られて作っている。

許斐 iPodの場合は、ユーザーのSystem of Useが変わったという点でイノベーティブ。iPhoneの場合は、もちろんその延長線上にはあるんだけれど、ビジネスモデルの構造を大きく変えようとしている。イノベーションという意味あいで見たときに違っている。

プロダクトではなくサービスの例は?

──プロダクトではなく、サービスではどんな例がイノベーションを呼べるのでしょうか?

 デルでしょうか。最近ちょっと不調だけど。業態という意味では、EMS(用語)が伸びている。

神成 EMSの存在はイノベーティブだと思うけど、企業にとってはイノベーションの種を外に出しているのではないか?

 だけど、安いからみんな麻薬のように使っちゃうんだよね。

神成 私はEMSは、最終的に、その地域の産業が滅びる一番クリティカルな要因になると思っている。デルは、ここまでサプライチェーンをしっかり整備して、部品在庫も減らしている。以前の常識では、PCを注文したら、まさかそれからアメリカに部品を取りに行くなんて考えなかったわけです。あのスケジュールで。それを実現したのはインパクトがあった。

 まず店頭に並べなかったことに、これまでとの非連続性があった。

神成 プロセスとしては、製造在庫が一切ないというのが、一番のイノベーションじゃないかな。PCというのは、その前まではパッケージされた標準仕様を売るものだった。BTOがある程度可能になったときに、新しいモデルとして、お客さんに合ったものを売ればいいと割り切ったことが、デルの一番のプロセスイノベーションだと思う。

日本ナショナルインスツルメンツ 許斐俊充氏

 デルがこれだけ伸びたのは、技術を持たなくても競争力のあるPCが作れる市場環境になったということが大きいと思う。90年代半ばまでは、日本のメーカーはPCのためにASIC(専用の半導体)を起こしたりしていた。独自デバイスを作る能力がなければ、魅力的な製品を作れない市場構造のままだったら、デルはここまで伸びなかった。

許斐 顧客から見た場合、これまでは欲しいと思ったときにお店に行って買って持って帰るものだったのが、デルの場合は必要なものを選んで注文してあとから届く。今すぐ買えるわけではないが、そのほうが自分にとってニーズに合ったものが手に入るから、今じゃなくてもいいや、と顧客に思ってもらえるようになった。そこが非連続だと思う。顧客にそう思わせる付加価値を、BTOで作ることができたところがポイント。

小野 単純に価格が安くて、カスタマイズしても納期が短い。これまでもできなかったわけじゃないが、プロセスイノベーションの結果、値段と納期が短縮されて、カスタマイズ性も担保されましたね。

 これまで企業でPCを買うとき、すごく時間がかかってたんです。合い見積もりをしたり。2000年頃に起こったことを思い出すと、複数社で相見積もりをして、2〜3カ月でメール10本打っていたのが、サイトでボタンを押して2週間で済む話になった。

ジェフリー・ムーア『ライフサイクル・イノベーション』よりイノベーションの4つのタイプ
製品リーダーシップ・ゾーン 顧客インティマシー・ゾーン オペレーショナルエクセレンス・ゾーン カテゴリー再生ゾーン
破壊的イノベーション

アプリケーション・イノベーション

製品イノベーション

プラットフォーム・イノベーション
製品ライン拡張イノベーション

機能拡張イノベーション

マーケティングイノベーション

顧客エクスペリエンスイノベーション
バリュー・エンジニアリング・イノベーション

インテグレーション・イノベーション

プロセス・イノベーション

バリュー・マイグレーション・イノベーション
自律再生イノベーション

企業買収再生イノベーション

収穫・撤退

小野 ジェフリー・ムーアのイノベーションの定義でいうと、プロセスイノベーション、プライスイノベーションのほかに、顧客インティマシー・ゾーンのイノベーション──お客さんとの接点の改善がある。デルの今の例は、お客さんとの関係のあり方に関するイノベーションですね。

 代理店の人がやってきて、それぞれで同じメーカーに発注しているつもりでも、「あっちが下げるならこっちも下げます」と言われたり。でも出てくる値段はなんかぼられているような気がしたり。Webでさっと出てくる価格で透明性が上がった。これによって他社もサーバの値段体系をがくっと変えた。300万がいきなり50万になったわけです。

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