第7回 「させていただく」――誰に「させていただいてる」のか?:つい口に出る「微妙」な日本語
謙譲を表す「させていただく」。へりくだった、丁寧な言い回しですが、あまり何もかもにつけられると、かえって「腰の低い人」という感じが消えうせてしまうのはなぜでしょう?
「はじめまして。私、部長待遇でマネージャーを務めさせていただいております本郷と申します。このたび、御社を担当させていただくことになりました。以前は、東京におりまして、日本を代表する大企業さまのお世話をさせていただいておりました。御社のような中小企業さまは不慣れではございますが、微力ながらお手伝いさせていただきたいと存じます」
お手伝いしていただきたくないですね、こういう人には。
こういうのを慇懃無礼(いんぎんぶれい)といいます。この言葉を、丁寧過ぎてかえって無礼、と思っている人もいるようですが、そうではありません。言い方は丁寧でも、内心は相手を軽く見ている様子を表します。言い方以前にその姿勢がNGです。
こういう人は論外ですが、「させていただく」という表現そのものも、場合によっては問題になります。
プレゼンテーション研修の中で、こういう質問をもらったことがあります。
「私は、ほとんどの語尾に『させていただく』をつける話し方に違和感を抱くのですが、プレゼンテーションという観点からするとどうなのでしょう」
私の答えは、「着席させていただきます」のように許可をもらう状況で使うのは問題ないが、「総務を担当しております」を「総務を担当させていただいております」のように使ってしまうのは乱用気味。総務を担当させてくれているのは、彼の会社の社長であり、目の前にいる聴衆にとっては関係のない話だから、というものでした。
ついでに、「させていただく」の是非について、会場にいた20人の受講者に挙手でアンケートを採ってみたところ、
- 丁寧だと思うので、数多くてもいいと思う……2割
- 特に意識しない……4割
- 数多く出てくると聞き苦しい……3割
- もともとあまり好きな言い方ではない……1割
6割の人は「別に、何度言ってもいいんじゃないか」ということですが、4割は、少なくとも連発には否定的ということです。
あとで思ったのは、「させていただく」に感じる違和感は「よろしかったでしょうか」などのバイト語に感じるそれとよく似ているということです。何となく丁寧さが増すような感じもしますし、付けようと思えばいろいろなものに簡単につけられ、その結果、本来使わなくてもいい場面で乱用されている言葉だということです。
肝に銘じよ!
何もかも 「させていただく」奇妙かな
筆者:濱田秀彦(はまだ ひでひこ)
ヒューマンテック代表取締役。1960年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て大手人材開発会社に転職。トップ営業マンとして活躍する一方で社員教育のノウハウを習得する。1999年に独立。現在はコミュニケーション研修講師として、プレゼンテーション、話し方、マネジメントなどの分野で年間100回以上の講演を行っている。また、Webサイトのプロデュース、システム開発も手がける。著書には『ビジネス快話力』(主婦と生活社)、『みんなのパワーポイント企画・構成・話し方』(エクスナレッジ)などがある。
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