疑問2 狙いはブランディング、それとも? ――身銭を切る企業:カーボンオフセットのカラクリ
コンビニ飲料に暑中見舞い用ハガキなど、カーボンオフセット付き商品が身近になりつつある。これに伴い企業はCO2排出枠を買い、国に寄付までしている。身銭を切って“損する”企業の狙いは?
やたらのどが渇く夏。飲み物でも買おうとコンビニに立ち寄れば、カーボンオフセット付きの飲料水を見つけたり、得意先に暑中見舞いを出そうと郵便局に行けば、カーボンオフセット付きの「かもめ〜る」を発見したり――。
カーボンオフセット付き商品がにわかに身近になってきた。カーボンオフセットとは、「疑問1」で述べたように、途上国などで削減したCO2量を先進国の企業などが権利として買い取り、買い取っただけCO2を減らせたとみなし、地球規模でCO2をオフセット(相殺)しよう――というもの。
カーボンオフセットで身銭を切り、寄付までする企業が続出
「買い取る」のは企業だ。事前にCO2排出権を購入してから商品を売り出すので、たとえ商品の価格設定をカーボンオフセット費用分上乗せしても、売れなかったら回収できない。もちろん、価格に上乗せしていない場合はまるまる負担となる。企業はさらに、買うことで“減らせた”CO2枠を日本政府に寄付までしているのだ。
なぜそこまでするのだろう――。さっそくカラクリを調べてみた。
すでに12.2%のオーバー、カギは京都議定書にあり
カギは1997年の京都議定書にある。議定書では1990年に各国が出したCO2排出量を基準に、2008年から2012年の間に国ごとに削減すべきCO2量が決められた。日本の削減目標は、基準年の1990年比でマイナス6%。ところが環境省によると、現時点で、すでに1990年比で6.2%オーバーしているという。
現状打破必至? ひざ小僧を蹴られる日本
しかも議定書の内容は、CO2排出の少ない東欧が崩壊した直後が基準年で、EU間で排出量の調整ができるためEUに有利。そもそも世界一のCO2排出国とされている米国が批准していない。おまけに排出量の多いインド、米国とCO2排出量の首位争いをしている中国などは、途上国であるため削減義務がない。
カーボンオフセットのプロバイダー企業、リサイクルワンでカーボンオフセット事業を立ち上げた興津世禄(おきつ・せいろく)氏は、議定書の内容を「日本には不公平感が残る」とコメント。
環境分析を行う企業、エコテストの児玉千洋氏は「机の上ではほほえみ合う外交の主戦場で、机の下でひざ小僧を蹴られているのに、それを認めたがらないのが日本」だと揶揄(やゆ)する。
カーボンオフセット権が当たるWeb懸賞キャンペーンを担当する凸版印刷の秋山大(あきやま・だい)氏は、こうした現状打破には「説得力のある代替案を示し、外交リーダーシップを発揮」すべきと話す。興津氏も「途上国も巻き込む仕組みを提案」し、日本が巻き返す必要性を述べている。
削減目標が達成できそうにないから……
ともあれ、1990年比で6%削減目標は正式に決まった。日本はこれをクリアすべく努力しないといけないのだ。ところが、環境省でCO2取引の整備を手がける安田將人(やすだまさと)氏によると、「国内努力だけでは、どう試算しても達成できそうにない」ことが判明している。
一方で、企業は製造時や輸送時などで自らが排出したCO2分、海外のCO2削減プロジェクトにおカネを投じる行為を通して買い取り、さらに政府に寄付してわが国の削減目標に充当しようとしているのである。
企業は身銭を切る以上の勝算、あり
買い取りは企業の負担。だがそれでも、企業が地道に長期的にCO2削減努力をするより、「費用対効果で見ても得策」と、世界初のカーボンオフセット事業を始めた企業、カーボンニュートラルのビル・スネイド取締役は、企業のカーボンオフセット導入のメリットを強調する。
また、「環境に責任ある企業だとPRすることが販促手段にもなっている」(興津氏)事例が後を絶たない。その有効な手段がカーボンオフセットというわけだ。
とはいえ無償で政府に寄付するとは本当だろうか。カーボンオフセットすることで、実は国から補助金がもらえたりするのでは? 安田氏にこの疑問をぶつけてみると――。
「カーボンオフセットを行う企業に、国が助成金などでサポートすることはありません。まったくの無償です」との回答。さらに「企業にとってはそれくらいカーボンオフセットによるブランディングが魅力的なのでは」と、同氏は分析する。
以上から、疑問2に対する答えはこうだ。
疑問2への回答
- CO2削減目標6%はすでに決まった国際ルール。日本は削減努力するしかない。
- 削減目標に寄与できるのが、カーボンオフセット。
- 企業がカーボンオフセットすれば、削減目標に充当することで「環境に責任のある企業」としてPRでき、販促につながるメリットあり。
というわけで、最終的にはブランディングのためとはいえ、CO2削減目標に役立てるため、日本の企業が身銭を切って頑張っている――らしいことが分かった。
名前(敬称略) | 所属等 | カーボンオフセットとのかかわり等 | 関連Webサイト |
---|---|---|---|
秋山大(あきやま・だい) | 凸版印刷 パッケージ事業本部 ITソリューション部 |
Web懸賞キャンペーンを展開 | カーボンオフセット・Web懸賞キャンペーンサービスのリリース |
明日香壽川(あすか・じゅせん) | 東北大学 環境科学研究所教授 |
環境問題等の研究ほか | 地球温暖化問題懐疑論へのコメント |
岡田俊二(おかだ・しゅんじ) | 近畿日本ツーリスト 団体旅行事業本部カンパニー 教育旅行課長 |
カーボンオフセット教育旅行の提案ほか | カーボンオフセット旅行のリリース |
興津世禄(おきつ・せいろく) | リサイクルワン 環境コンサルティング事業部 マネージャー |
カーボンオフセット事業のプロバイダー | リサイクルワン |
児玉千洋(こだま・ちひろ) | エコテスト 代表取締役 |
環境分析ほか | エコテスト |
武田邦彦(たけだ・くにひこ) | 中部大学 総合工学研究所副所長 工学博士 |
環境問題等の研究ほか | 武田邦彦(公式サイト) |
ビル・スネイド | カーボンニュートラル (イギリスの企業) 取締役 |
世界初のカーボンオフセット事業のプロバイダー | カーボンニュートラル |
安田將人(やすだ・まさと) | 環境省地球環境局 地球温暖化対策課 市場メカニズム室 排出量取引係長 |
CO2排出の整備ほか | 2006年度の温室効果ガス排出量について |
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