家電量販からリユース業へ、ワットマン社長の決断がもたらしたもの:社長の決断、社員の変化(3/3 ページ)
家電量販からリユース業へ――業種転換という社長の大きな決断から4年目を迎えていたワットマン。従業員数、店舗数ともに最盛期の3分の1となったが、成長性を見込めるリユース業への挑戦は社員の意識を変えたという。
困難な課題が社員のモチベーションを上げた
2004年の転換の時、それまでの約30店舗のうち10店舗を完全に閉店し、10店舗を営業譲渡。残りの10店舗強をリユース業に転換した。従業員も店舗と同じように3分の1が退職し、3分の1は家電販売を続けたいという希望で営業譲渡した会社へ移籍。3分の1がワットマンに残り新しい仕事に挑戦したのだ。
「現在の店長たちは家電販売の経験者なので売り上げに関心が強かった。生産件数を上げることに意識を変えることが一番難しかったです」と清水さんは言う。しかし、自ら新生ワットマンで新しいことに挑戦しようと志した社員は社長の決断でさらに大きく変わることになる。
リユース業の特徴は、一般的な流通と異なり仕組みが複雑なことだ。客が持ち込んだ商品を全部買い取ると生産件数が膨大になり、自分の首を絞めることになる。修理、点検、クリーニングの全工程を担当するからだ。無闇に買い取っていると、生産する前に廃棄せざる得ない中古品の点数も増える。
店長は自分自身だけでなく、採用したパートやアルバイトの意識も売り上げから生産件数に向かうようにしなくてはいけない。まずは、生産件数を上げることが売り上げを伸ばすことにつながるという仕組みを理解させること。続いて、いかに効率よく、廃棄商品を出さないように買い取り、生産件数を増やすのかを考えさせる。家電販売の時には経験しなかった課題と向き合っているのだ。
ただモノを販売していた家電量販業だったころと比べると格段の複雑さである。しかし、その困難さが社員のモチベーションを高めているという。
「きっと今までは仕入れられたものを売ることだけを考えていましたが、今は仕入れ(買取り)から売るまでを考え、生産の効率化などさまざまな視点で考える必要があるので面白いのだと思います」と清水さん。さらに、売り上げ意識を生産件数に変えるために、買取り件数や生産件数で評価するようにしている。
各店長の重要課題は、毎月の目標生産件数を1日の目標値に落とし込むこと。それをパートやアルバイト一人一人の日々の目標に割り振っている。店長はパートやアルバイトにまで生産金額を意識させて、一緒に目標達成するための計画を立てて、スタッフ全員のモチベーションを高めているのだという。
“小さな池”と言ったリユース業だが、社員とのコミュニケーションにも清水さんらしい信念がある。神奈川県にこだわって出店することだ。現在3種類のリユース業(書籍、ハードウェア、衣類)で各分野の店長会議を毎月1回行っている。一番多い店舗数のオフハウス(衣類)では12店舗だ。神奈川というエリアで、このぐらいの店舗数が店長会議でも意見を聞きやすいという。
店長会議以外にも毎月3日間かけて全店舗に出向いている。会議内ですり合わせできなかったことについてじっくり店長と話し合うのだという。「私は毎日出てくる膨大なデータを見て、数字から分かることを話します。店長は一番現場を知っているので数字と現場の情報をすり合わせて、対策を練るのです」。社員のモチベーションを高めているのは清水さんの新しいことに挑戦する姿勢と、きめ細かいコミュニケーションなのかもしれない。
現状を否定できるか
社長である清水さんが決断した業種転換は会社の規模を縮小することになったが、社員の仕事への意識は高まった。成果も出ている。
トップダウンで下した業種転換は、成長性のある市場でのナンバー1戦略。さらに、店舗訪問や店長会議などボトムアップで課題を乗り越えている。
最後に清水さんは「現状を否定できる考えが特に重要」だと話した。今のワットマンがあるのは、家電販売からリユース業への業態転換、さらに赤字から黒字転換してもこれで良しとしなかった現状否定の繰り返し――。
成熟した市場はすでに多くの企業が試行錯誤して作り上げた仕組みや考えが定着している。これを否定して変えることは逆に大きなリスクだ。一方、リユース業のような新しい市場はまだ試行錯誤されつくしていないと言える。だからこそ、失敗を恐れず、失敗をしてでも変化をさせることが必要なのだ。
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