「よく頑張ってるね」――成果には触れず、努力を認める発言を:簡単に信頼関係を築く方法(2/2 ページ)
落ち込んだ人がハマッたレベルを脱したら、受け入れレベル、抜けたいレベルへとステップアップします。この時、過去の失敗や未来の希望、あまり期待できない現在の成果に触れると、元のハマッたレベルに逆戻りしてしまうので、対応には注意が必要です。
「抜け出したい」にも徹底共感
ハマッたレベルの人は、「この状態から抜けられる」という気持ちにもなりませんが、「このハマッた状態からどうしたい?」と聞いたときに、「抜け出したい」と答える人は、(3)の抜けたいレベルの人です。こちらの「なんとかこれを乗り越えられないか」という気持ちに、「そうしたい」と応じる態度をみせたら、抜けたい、乗り越えたいという思いに共感してほしいのです。
ここですぐ方法論に入って、「私の経験だと、こんなことをやった時によかったよ」とやってしまうと、またハマッたレベルに戻ってしまいます。ここでは方法論は一切話さずに、「抜けたい」という気持ちに共感してください。もちろん、本人がアドバイスを求めたら、してあげてください。でも、「なんとか打破したいんです」と言っているだけだったら、そこだけに注目するだけにします。
「本当によくがんばった」――過去の成功のみ指摘、本人が自分を認める手助けを
クライアントやお客さんとの会話でも同様です。
景気がよくない、従業員はやる気がない、仕事もうまくいかない、業界は厳しいというような話をして、徹底的にハマッたレベルで共感できたとします。相手が「なんとかしたいんだよな」と言ったら、「そうですね、なんとかしたいですね」と共感します。そこですぐに、「この方向でやってみたらどうです?」と、こちらから言うのは早すぎます。
そのうち、「自分はこの状態から抜け出すために、こんなにがんばっている」と言い出したり、「そこから抜けるために、いろいろやってきたんですね」というこちらの言葉に、本人も「そうなんですよ。こういう努力もしたし、ああいう努力もしたし、こんなこともしたし」という感じで応えるようになることがあります。これは、(2)の受け入れレベルの状態です。その場合は、「がんばってきたじゃないですか」「本当によくやったよ」と認めてあげてください。
できていないところは指摘せず、できている過去を指摘してあげてください。相手が部下だったら、「去年のあの忙しい時期、君があそこでがんばったからできたんだよ」とか「あの時期をよく乗り越えたね」といった言い方をして、本人が過去に困難を乗り越えたことや、うまくやれたことを指摘します。
もしこれをハマッたレベルの人にやってしまうと、強く否定してきます。ハマッたレベルの人に「あの時はよくやったよ」と言うと、「そんなことないですよ! 僕なんか全然役に立っていない。○×さんはできるのに、僕なんか徹夜してもこれしかできていないんです」となってしまいます。
「抜けたい」という兆しの中に、やっと少し「前向きになろうかな」という姿勢が見えてきているので、いきなり未来の話をするのはキツいです。ただ、過去にできたところに目を向けよう、ということだったら、本人も「それだったら」という気持ちになれます。
「いろいろな事をやろうとしてるね」――成果には触れず、努力を認める発言を
ところで、受け入れレベルと抜けたいレベルは、先にどちらの状態になるかが人によって違います。
「つらいよね、キツいよね」というところから、ありのままの自分にOKを出して、その後、抜けたいレベルに移行する場合もあります。その時も、未来への夢を持たせたり、がんばれという話をしないでください。受け入れレベルと抜けたいレベルでは、未来や希望、期待は一切描かないでください。
過去にすでにできていて、本人も自分ができていると思える成果に対して、そのまま認めることが大事です。「もうちょっとで、これもできていたのに」とか「これができてたらよかったんだけど……」というのは絶対ダメです。変えた方がいいことは言わず、未来の希望や期待も持たず、「今のままのあなたでいいんだよ」と認めてあげてください。
過去の自分を認めたら現在に進みますが、その際に気をつけたいのが、成果の話をしないということです。受け入れレベルと抜けたいレベルの時はあまり成果が出ませんので、成果の話ではなくプロセスや努力の話をしてください。
例えば、成果だと「あのとき、君はすごいがんばって20件も取れたじゃないか。今だって不況の中、ちゃんと月に3件も取れてるよね」と言っても、「そうですよね、僕は3件しか取れない。みんなは7、8件は取れているのに」とネガティブになります。なので成果ではなく、「めげずに朝から訪問してるね」とか「いろいろな事をやろうとしてるね」というように、努力やプロセスを言及してください。
次回は最終段階「(4)ノッてるレベル」を見ていきます。
ピークパフォーマンス 代表取締役
平本あきお(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は、『すぐやる! すぐやめる!技術 ― 「先延ばし」と「プチ挫折」を100%撃退するメンタルトレーニング』。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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